「あのさっ、帰りにクレープ食べて行こうよっ」

敦子が昇降口で挙手の真似をして言い出す。

河田が断る訳がない。

「敦子、お前試験余裕だな」

「いーの、だって古典はもう捨ててるしっ」

だからって他の教科で取り返すとか言う頭はないのか。

また補習の手伝いか、とうなだれる。

「千恵ちゃんは?行くよね」

「あ……えと……」

山岡は敦子の言葉にとまどって声を濁した。

「行っこーよ!」

河田が山岡の肩を叩く。

「試験前なんだから、無理言わすな」

「ごめんね、今回の試験範囲広いし。色々……集中できないから、夜くらいは、がんばりたいんだ」

「そっか、そだよね。じゃあ試験明け! 一緒に行こうね!」

敦子が言って笑った。

「うん、敦子ちゃん」

「ねー敦子でいいよぉ、この前敦子って呼んでくれたじゃん、私も千恵って呼ぶ!ね!?」

女子2人が校門に向かって歩いていく。

河田が2人を見て、何か頷いていた。

面倒なことだろうと、無視をする。

「俺も敦子、とか千恵、とか呼びてぇ……」

「呼べよ……妄想してるよか健全だぞ」

女子2人の後を追いながら、河田と距離を置きたい気分になる。

「呼んでいいわけ?お前は」

「なんで俺に聞くんだ」

「怒りそうだなーとか」

「別に」

「そりゃよかった。俺も話に混じってこよー! 数学バカと帰り一緒なんてゴメンだぜっ」

河田は早足に先を行く2人に絡んだ。