葵は、俺と手を繋いでいればエレベーターに乗れるようになっていた。

サトが「やっぱカップルじゃね?」と見る。

「しょーがねーじゃん、35階分の階段降りること考えてみ?」

ありえないだろ、この時代に。






スーパーまでだらだら歩いても、10分からない。

人波に葵が流されないように、手は繋いだまま。


「夕飯食ってく?」
「おー。親にメール打っとくわ」
「良い息子だこと」
「うっせー」

ケータイをカチカチやり始めたサトは放っておいて、葵に話しかける。

「葵、何食べたい?」
「いちご!」

葵は真剣な顔をしてそう言った。俺は苦笑して答える。

「苺はこの時期ないかなー」

しきりに首をかしげる葵。
親友は親友で

「ラーメン」

なんて言い出す。





「お前には訊いてねー」

「けち。禿げるぞ」

「んな理屈、知らねえし」

「理屈とか何言ってんだおまえは」

サトは似合わねーとバカにしたように言う。
俺はまあな、と同調し、とにかく禿げないと付け足した。






そんな風に軽口を叩きあってふざけていたら、いつの間にか葵の姿が隣から消えていた。

あわてて振り返ると、洋食屋のレプリカの前に立つ葵の姿が見えた。
目線は、正面のオムライス。


「オムライスか?」

「そうらしいな。葵、この黄色の?」

「うん!」

葵は振り返って、目をキラキラさせた。

「よっしゃ、オムライスな!」









どうも葵は、黄色がお気に入りのようだった。
ひまわりにせよ、オムライスにせよ、黄色。

………まぁ、苺は例外か。

スーパーに着いて、かごを片手に、目当ての物を探す。


「オムライス、俺も結構好きだなー、最近食ってなかったけど」

「卵、ケチャップ…えーと」