ドアが通路側に開く。

その途端、廊下を風が吹き抜けた。廊下の向こうに見えるリビングのカーテンがはためいていた。

「広すぎじゃん」

廊下が長いと呟いたサトをちらりと横目で見てから、「…まぁ入れよ」と促した。

サトは一瞬ためらうように頭を掻いて、それからお邪魔しますと呟いて、靴を広い玄関の片隅に脱いだ。

そのとき、廊下に並んだドアの一枚が、勢いよく開いた。

「ちとせくん、おかえりー!」

笑顔の少女が俺に飛び付いてきた。
受け止めて、「ただいま」と返すと、くすぐったそうに笑う。




「な…!?」


サトがまた唖然としているのが目の端に映った。
無理もない。
俺は一人暮らしと教えていたんだから。






「葵、俺の親友の、サトル」


その声に初めてサトの存在に気付いた葵は、一瞬俺の腕の中で身を強ばらせた。


「大丈夫、いーやつだから」
「…大丈夫?」
「うん」

サトに目配せをした。
親友はあわてて、

「こんちは」

と軽く頭を下げた。



「葵、ケーキがあるぜー」
「いちご?」
「うん、苺」

やったぁ!!と、両手を挙げる。

「なにか忘れてるよ」

葵の目線に俺のそれを合わせて言う。
葵は一瞬思案顔になって、すぐヒマワリのような笑顔を見せた。

「ありがと、ちとせくん」
「よし」

頭を撫でてやると、くすぐったそうに笑った。