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「へえ〜、趣味はサッカーなんだ!」


『まあね//』



遠くから聞こえる彼女の声。


ち、近くないか!?


屋台とやらの、影に隠れながらあいつら2人を観察する。


け、決してストーカーな訳では無いぞ!!


目の前にいるのは、高槻涼香とモブ←おいこら


2人は楽しそうに会話をしながら歩いている。



「あ、金魚すくいだ、一緒にやろう?」


『うん、任せてよ涼香ちゃん。俺得意だからさ!!』



そう言って、男は涼香に微笑んだ。


キンギョスクイ?


何だそれ!?


俺は、混乱するも2人の様子を見守った。


どうやら、小さな網のようなもので金魚をすくう庶民の遊びのようだ。


というか、金魚とはあんなに小さいのか?


父が持つ別荘にある池には、もっとでかいのがいるはずなんだが。


いや、そんなことはどうでもよい。


ふ、2人の距離が近いではないか!!


ふ、不埒な!!


結婚前の男女が、あんなに近いのは駄目ではないのか!?



「あっ、だめだ……私、すぐ穴空いちゃうや。」


『任せなって』


「ほんと?期待していいの〜?//」




「……あいつのあんな笑顔、初めて見た……」



俺の前ではいつも───。


【あんたなんか大っ嫌いよ!!】


────ズキン。



「なんだ?」



今胸が、締めつけられるように痛んだ。


何かの病気か?




─────ドンッ


「──っ、きゃ……」



「っ!?」



アイツの叫び声が聞こえて、意識が覚醒する。


振り返ると、涼香が地べたに尻餅をついていた。


一体何が──


視線を上に動かせば、ガタイのいい男3人。


あからさまに不良の雰囲気を出して、涼香を見下ろしていた。



[おい、どこ見て歩いてんだ!?]


「す、すみませっ……」


『涼香ちゃん、大丈夫?』



彼女の瞳が、恐怖に揺れる。


くそっ!!


あの野郎……っ


今すぐ助けに行きたいが、生憎彼女のそばには男がいる。


俺が出ていく場ではない。


畜生っ。



[なかなか、上玉じゃねえか……ちょっと、来い!!]


「痛っ!!……いやっ!」



男の1人が、涼香の腕を強引に掴む。



『テメェ、涼香ちゃんを離せ!!』


[あぁ!?……何だテメェ!]


『ヒッ……!!』



どうやら、あの男は腰抜けらしい。


不良達に睨まれた男は、逃げるように走り去っていた。



「やぁっ、誰か───!!」


[さっさと、こっちに───っ!?]



バキッ!!


そんな音と共に、男が吹っ飛ぶ。


気がつけば、涼香の前に来ていて。


俺は怒りのあまり、男を殴ってしまったようだ。



「花之屋、蓮華……?」


「離せ、汚ない手でこいつに触んな」


[いってぇ……っ!テメェっ!!]



俺は殴りかかろうとする男の腕を掴み、反対方向に捻る。


男は、悲鳴をあげた。



「おい、貴様。誰に向かって口を聞いている」


[は、はあっ……!?]



俺は、静かに相手を睨みつけた。


その迫力に圧倒された男は、固まったまま動かない。



「俺は、花之屋蓮華だぞ?」


[花之屋って……まさか、あの花之屋財閥か!?]


「そうだが」


[はっ、嘘つけ!!財閥の御曹司が、こんな所にいるわけ───]



俺はため息をついた。


どうやら、こいつは馬鹿らしいな。


こんなことも、知らんとは。


俺は周りを見渡すと、小さく呟いた。



「…………はあー、お前らバレバレだぞ。出てこい。」


[はあっ!?何独り言言って──]



「「「かしこまりました、坊ちゃん」」」



男が、眼前の景色に口を開けて驚く。


まぬけだな。


というか、当たり前か。


男の頭上には、無数のヘリ。


男を囲む、黒いスーツを着た者。


隣にいる涼香もまた、信じられないと言った顔で俺を見た。



「全く、お前らはいつも過保護すぎんだよ……」


[な、何だこれは──]


「は!?見て分かれよ、俺の優秀な従者達だ。」



少し、過保護だがな。


呆れていると、黒い燕尾服を着た細身の男が、不良の肩を掴む。



[……っヒ、何だお前っ]


「坊ちゃんに使えております、翡翠(ヒスイ)です。以後お見知りおきを」



ニコッと笑う、翡翠は悪魔のようだ。


当たり前だ。


その眼鏡の奥の瞳は、決して笑っていない。


男は怯えたように体を震わす。



「はあー、もういい。翡翠、離してやれ」


「ですが、坊ちゃん「いいから」了解です♪」



無邪気な笑顔を振りまいて、翡翠は男から手を離した。


男は、足早に去っていく。


俺は去っていく男の耳元で、囁く。



「二度と俺の視界に入るな。
───さもなければ、お前を社会的に抹殺してやる」


[ヒッ……!すみませんでしたー!!]



そう言いながら、半泣きの状態で男どもは去っていった。


ふぅ……と、ため息をつくとポカーンとしている涼香に手を差し伸べる。



「ほら、掴まれ」


「今のは……?」


「俺の、執───「坊ちゃまああああ!!」



言い終わる前に、俺に飛びつく男。


こんなことをするのは、あいつしかいない。


元々、この男が過保護すぎるからこうなるのだ。



「っ、離れろ翡翠!!」


「ですが、坊ちゃんが怪我をしていますので!」


「怪我……?」



指先を見れば、少しかすり傷ができていた。


小さな、傷。



「……かすり傷だ、なんともな──「かすり傷!?」


「坊ちゃんに、かすり傷!?」



あ。


やばい。


言うんじゃなかった。