『遥(はるか)ー。帰るぞー』


手の中に収めていたスマホを振るわせたのは、幼なじみからの短いメッセージだった。

どうやら私はいつの間にか眠っていたらしい。

スマホを握り締めたまま机に預けていた上半身を起こすと、窓から差し込む温かい陽射しに目を細めた。

窓の外で波打ち揺れる一面の緑。

換気の為に僅かに開いた窓からは、葉が擦れ合う音。

私はそれをBGMにしながら、室内を見渡した。


静かな図書室には、私とカウンター当番の女生徒だけのようだ。


私は幼なじみに今からそっちに行くことを返信し、読みかけだった本を閉じて元あった場所にしまうと、鞄を手に図書室をあとにした。


図書室はこの高校に入学してすぐにお気に入りになった場所。

窓際に設置された長机の右端付近は日当たりが良くて、放課後、予定がなかったり暇を潰す時にはいつもそこで過ごしている。