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ほぐした鯵の身が、つまんだ箸の先からほろりと落ちた。

短くため息をつく。

視界の端には、向かいの席で、骨から器用に身をはがす無駄のない箸さばきが見えた。

まだ熱いナメコの味噌汁から、のらりくらりとたちのぼっている湯気が邪魔をして、静かに箸を口へと運ぶお父さんの顔にもやがかかる。

壁があるみたいに、私とお父さんを遠ざける……。

あたたかいはずの湯気が、冷え切った冬空にはいた息みたいに寒々しく見えたのは初めてだった。

私は目を逸らすように右を向く。

そこにはいつだって、私の記憶の中には生きていないお母さんの顔がある。

毎日飾りかえる花瓶の隣にある小さな写真立て。

写真の中のお母さんはいつでも、私よりも美しい顔で微笑みかけてくれている。

だけど、それを見るたびに胸がキリリと痛むんだ。