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 頬を染めて恥ずかしそうに俯きながらも、嬉しそうに好きな人のことを話す篠塚。

 俺はそんな彼女を素直に可愛いなと思えた。

 女の子を見て、普通に可愛いなとかそういうことを思える。

 なのにどうして、俺は青山を好きになってしまったんだろう。


「稲葉は? 稲葉は青山のどこが好きなの?」


 ずっと俯いて床に向かって喋っていた篠塚が、俺の方を見上げてきた。


「単純だよ。格好いいトコロ」


 自分で言いながら、そのあまりの単純さに肩を竦めてしまう。

 中学に入って最初の剣道部の試合。

 クラスのみんなが応援しに行くって言うから、俺も付き合いで行ってみただけの試合だった。

 格闘技場の中に響く、耳に痛い大声援。その中で向き合う二人。

 試合開始と同時に踏み込まれた足に、相手は動く間もなく面と叫んだ声があの声。

 声援の中でも凛と高く響いた。

 一本を取り、試合はあっという間に終わってしまった。

 勝ったにも関わらず喜ぶ様子もなく冷静な様子で、無言で面を脱いだ。

 面の下から現れた引き締まった顔。

 紅潮した頬。

 その美しい出で立ちに、引き込まれる。

 それが青山で、一目惚れだった。


「顔が赤いよ、稲葉」


 下からニヤニヤと覗き込んでくる篠塚に、思わず顔を腕で隠してしまう。


「見てんじゃねぇよ!」

「やっぱり稲葉も好きなんだねぇ」


 からかうように言われ、思わず意地の悪い言葉が口をついた。


「いくら好きでも、意味ないよ。好きになってもらえる可能性なんてないんだから」


 自分の痛いところは篠塚も痛い所だ。

 そこをついたのに、篠塚の笑顔は崩れなかった。