* * *
「稲葉って、青山のことが好きなの?」
私が口にした名前に稲葉は可哀想なぐらい青ざめていた。
それでも私の言葉は否定せずに、コクリと頷く。
「なんで、分かった?」
「なんでって……」
私が稲葉の様相に思い出したのは、今年の春の光景だった。
青山と同じ剣道部の水無瀬太一が、学校にグラビアアイドルの写真集を持ってきていた時のこと。
朝のショートホームルーム前、担任教師が来る前にクラス中の男子がそれを回し読みしていた。
机の上に開かれた本にのめり込むように身を屈め、騒いでいる。
女の子たちはその様子を白い目で見ていて、私も浮かないようにそんな目で見るよう努めていた。
クラスで――いや、学校で一番人気のある青山透もそこにいて、そのことに女の子たちはショックを受けながらもどんなタイプの子が好きなのか興味津々だった。
白い目で見ながらも、耳をそばだてて聞いている。
前のめりになる黒い学ラン集団の中で、稲葉の少し茶色がかった頭だけが飛び出していたのを覚えてる。
「圭一は、誰が好き?」
あまり話に加わってこない稲葉に気を使ったのか、青山が稲葉に話を振っていた。
机を囲む集団の隙間から、グラビアアイドルの集合写真が見えている。
なのに稲葉は顔を真っ赤にして、青山の顔をじっと見つめたまま動かなくなった。
ひどく驚いているようで、ハトが豆鉄砲を食らったような顔ってはこれのことなんだと思った。
そのやり取りを見ていた他の女の子たちは、「稲葉ってピュアだね」とか「かわいい」とかそう言って笑っていた。
けど、私は笑えなかった。
なんだか稲葉の表情が妙に引っかかって、ひどく気にかかる。
取り繕うように慌てて稲葉はグラビア写真の中の一人を指差していたけれど、そしたら今度は男子に巨乳好きだとからかわれていた。
そして、一瞬顔を伏せた稲葉の――あの苦渋に満ちた顔。
それを見たのは私だけだったんだろう。
「稲葉って、青山のことが好きなの?」
私が口にした名前に稲葉は可哀想なぐらい青ざめていた。
それでも私の言葉は否定せずに、コクリと頷く。
「なんで、分かった?」
「なんでって……」
私が稲葉の様相に思い出したのは、今年の春の光景だった。
青山と同じ剣道部の水無瀬太一が、学校にグラビアアイドルの写真集を持ってきていた時のこと。
朝のショートホームルーム前、担任教師が来る前にクラス中の男子がそれを回し読みしていた。
机の上に開かれた本にのめり込むように身を屈め、騒いでいる。
女の子たちはその様子を白い目で見ていて、私も浮かないようにそんな目で見るよう努めていた。
クラスで――いや、学校で一番人気のある青山透もそこにいて、そのことに女の子たちはショックを受けながらもどんなタイプの子が好きなのか興味津々だった。
白い目で見ながらも、耳をそばだてて聞いている。
前のめりになる黒い学ラン集団の中で、稲葉の少し茶色がかった頭だけが飛び出していたのを覚えてる。
「圭一は、誰が好き?」
あまり話に加わってこない稲葉に気を使ったのか、青山が稲葉に話を振っていた。
机を囲む集団の隙間から、グラビアアイドルの集合写真が見えている。
なのに稲葉は顔を真っ赤にして、青山の顔をじっと見つめたまま動かなくなった。
ひどく驚いているようで、ハトが豆鉄砲を食らったような顔ってはこれのことなんだと思った。
そのやり取りを見ていた他の女の子たちは、「稲葉ってピュアだね」とか「かわいい」とかそう言って笑っていた。
けど、私は笑えなかった。
なんだか稲葉の表情が妙に引っかかって、ひどく気にかかる。
取り繕うように慌てて稲葉はグラビア写真の中の一人を指差していたけれど、そしたら今度は男子に巨乳好きだとからかわれていた。
そして、一瞬顔を伏せた稲葉の――あの苦渋に満ちた顔。
それを見たのは私だけだったんだろう。