「うん」


 少し申し訳なさそうに、少し照れくさそうに、頷いた。


「うそ……」


 女生徒の顔が歪み、大粒の涙がこぼれる。

 俺は、頭が真っ白になった。

 自分が好きだと告白してきてくれた女生徒に対する、青山の誠意なのかもしれない。

 でも、俺は嘘でもいいから好きな人なんていないって言ってほしかった。

 だって、青山が好きな人は女子だ。


「誰、ですか?」

「ごめん。さすがにそれは……」


 言えないと首を横に振る青山に、掴みかからん勢いで女生徒は声を上げる。


「ダレ? 誰なんですか、先輩! 同じクラスの人ですか? この学校の人ですか?」


 詰め寄る女生徒に青山は何も答えない。


「誰なんですか!」


 あの人かこの人かと知っている人の名前を全部挙げだす女生徒に、青山は首を縦にも横にも振らない。

 女生徒が次々と挙げていく名前。

 女子の名前――どんなに名前が挙がっていっても、決して挙がることのない俺の名前。

 篠塚愛子の名前が挙がることはあっても、稲葉圭一の名前は絶対に挙がらない。

 だって、俺は男で、青山も男なんだから。

 男性が好きな人がいると言えば、何も言わずともそれは女性で……いや、何も言わないからこそそれは女性だ。

 奥歯を噛み締める音でも聞こえたのか、心配そうに篠塚が俺のことを見上げてくる。