その日の放課後、俺はたまたま日直で皆より遅く教室を後にしていた。

 昇降口を出て体育館と校舎の間を西門に向かって歩く。

 帰宅部はとっくに帰って、部活動に勤しむ生徒が帰るにはまだ早い。

 もともと俺のように西門から帰る奴は少ないし。

 だから、それを見たのも俺一人だった。

 保健室の前を通りかかったときに吹き抜けた風。

 突然の風に驚いて、風に背を向けた。

 その先の後者で、保健室のベッドを仕切るカーテンがはためいたのが見えた。


「篠塚!」


 カーテンの中、ベッドで眠る三笠に覆い被さる篠塚。

 その互いの唇が触れるか触れないかというところで、俺は思わず叫んでしまった。

 俺の声に驚いて顔を上げた篠塚は、怯えにも満ち満ちていた。

 けれど、風が止んで落ち着いたカーテンがその表情も元通り隠してしまう。

 予想だにしないクラスメイトの姿に、しばらく呆然と立ち尽くす。

 でも、我に返ると俺はすぐに校舎内に行ける場所へと走っていた。

 高鳴る心臓に、俺は篠塚に会いたくてたまらなくなっていた。

 篠塚と会って話がしたい。

 だって、俺は……篠塚が三笠にキスしようとしていたことが嬉しかった。