「さくら、後ろがちゃんと巻けてないよ」


講義室の机に腰を下ろすなり、ミカはそう言って慣れた手つきであたしの髪をコテに巻きつけた。


「ほんとに? やっぱりあたしって不器用なのかな」

「んー。さくらの髪はサラサラすぎて巻きにくいんだよ」


美容師に憧れたこともあるというミカは、頼んでもいないのに嬉しそうに巻き髪を作っていく。


熱々のコテを髪に当てるたびに、わずかに聞こえる、ジューッとどこか美味しそうな音。


「ミカさあ、それって今年の新作?」


あたしはミカの耳もとでさりげなく揺れる、見慣れないピアスを指差した。


ピンクゴールドに小粒のダイヤがのっていて、その遠慮がちな華やかさは、いかにも彼女らしい。


ミカは「まあね」なんて、わざとそっけなく言う。

得意な気分になってる時の、彼女の癖だ。



ミカに髪をセットしてもらいながら、おしゃべりに興じるのがあたしの朝の定番で、その内容はだいたいいつも同じ。


昨夜のテレビドラマ

最新のブランド物

あの携帯のカメラは高画質らしいよ、とか、そんな感じ。



「はい、完成」


そう言って、ミカはあたしの髪からコテを離す。


それと同時に、講義室の引き戸がガラガラと重い音をたてて開いた。