胸の奥に氷をおさめたような冷めた心が支配していた。

 所々ひび割れたアスファルトの山道に緑色の案内標識は、中国自動車道まであと五キロであることを告げていた。

 その標識を過ぎた次のきついカーブで、その車は現れた。

 横っ腹を進行方向に向け、フロントバンパーをガードレールにめり込ませている。道路を塞ぐようにして止まったその白いセダンに動く気配はなかった。

(運転手はいないのか?)

 速度を落とし、車の後部のわずかな隙間を通過しようとしたとき、

(なんだ!?)

 突然男が車の陰から飛び出して目の前に現れ、そしてすがりつくように絡みついてきた。

「バイクをよこせ!」

 動きは鋭くないものの、死に物狂いの力に、たまらずバランスを崩してもつれ合う。男は俺と同じくらいの年だろうか? 細身の体を清潔感のあるワイシャツに包み、転んだ拍子に眼鏡を飛ばした。