真っ白な世界に浮遊する身体。腕に抱いた温もりに幸福感を感じながら俺はそこに居た。

 このままで良い。ずっとこのままで……

 その想いを打ち消すかのように一陣の風が吹き抜ける、と同時に腕の中にあったはずの俺の幸福すべてが、抜け落ちるように感触を無くした。

 慌てて手繰り寄せる腕は空を切り、その腕さえも光に包まれてゆく。その時、どこからともなく声が聞こえてきた。

『いまさら求めてどうなる? お前が切り捨てたんだ』

「違う、別れを切り出したのは俺じゃない!」

 俺はその声に反論した。

『違うな。そうなるよう仕向けたんだ』

「仕向けてなんかいない!」

『お前が逃げたからだ』

 その声は徐々に怒気を含み、大地を震わすような地響きのような音量となった。

「逃げていない!」

『逃げただろう、自分自身の苦しみから!』

 眩しい光に覆われる視界のなかに薄桃色の花びらが散り行くのが最後に見えた──