「癌です。」




突然の医者からの宣告





嘘…だろ……




俺、兼元拓(かねもとたく)は29歳にして癌の宣告を受けた。



その後は「癌です」が脳内リピートで医者の説明なんて右から左へ抜けていくだけ。



「拓!」



親友の声にハッとして顔を上げる。


遠山光(とおやまひかる)は20年来の親友。

医者の世界はよくわからないが、異例の出世をし現在は地元のこの大学病院で働いている。



「ここからはちゃんと聞け」



今まで他人行儀な喋り方をしていた光がいつもの口調に戻り、そう前置きをして、俺の目を真っ直ぐに見て説明を始める。



俺の癌は肺癌で、肝臓や腎臓にも転移が見られる第2ステージと第3ステージの間だと



「今、手術をしても全てを取り除けない。まずは放射線治療法と抗癌剤で小さくしてからだ。」


「治るのか?」



「…五分五分といったところだ」


俺の問いに眉を少し寄せ答える光。



こうゆう時は大抵五分もない。


光の顔を見ればわかる。



「家族にも…栞(しおり)さんにもきちんと話せ。」











栞…




病院を出て帰る途中の公園でベンチに腰を下ろす。

砂場で遊ぶ3歳くらいの男の子とお母さんを見つめながら、ズボンのポケットから煙草を取り出そうとして止めた。




俺、肺癌なんだった。





ついてないな…






今回の帰省も母親が脳梗塞で倒れたことで駆け付けた。


幸い大事には至らず、リハビリでほぼ元に戻るのだとか。


母親の付き添いで病院行き、暇を持て余している時に光から「新人の練習台になれ」とレントゲンやらMRIやらさせられ、癌が見つかり精密検査に呼ばれたのだ。





会社で受けた健康診断は問題なかったのにな…




進行が早いから早急に治療を始めるって光が言ってたな…




栞にも話さなきゃな…





俺、死ぬのか…





砂場で遊んでいた親子の背中を見送り、ベンチから立ち上がる。


蝉の声を背に汗ばむ体を家路へと向ける。