* * *


 ベッドを囲うカーテンの仕切りの中で、私は空調の音に耳を傾けていた。

 保健の先生は職員室に電話をかけに行き、ここには私と舞しかいない。

 授業終了の十五分前に熱を出して倒れた舞は、今も保健室のベッドの上で苦しそうに息をしている。

 放課後を告げるチャイムを聞きながら、私はじっとベッドサイドの丸椅子から舞を見つめていた。

 チャイムが鳴り終わると共に、少し校舎内が騒がしくなる。

 けど、昇降口から遠く離れた保健室にとってはそのざわめきもどこか遠くて、暖房の風の音の方が強く耳に残った。

 三笠舞――私の親友で、今は熱を出して寝込んでいる彼女。

 高潮した頬に肌は汗ばみ、髪が首筋にはりついてる。

 先生が用意した氷枕に頭を乗せる舞の額に、私はそっと触れた。

 手は熱を感じ、汗に肌がはりつく。

 より熱いのは私の手の方で、高鳴る胸に大きく息を吸う。

 私はようやく自分を理解した。

 舞が、好きなんだ。

 私は親友の女の子に恋をしていた。

 そっと額から離した手を枕元に置き、体重をかける。

 身を屈め、私は舞を覗き込む。

 垂れる髪が舞にふれてしまわないように耳にかき上げ、それを押さえたまま私も目を閉じる。

 唇が触れる。

 そう思った時、換気のために少し開けられていた窓から風が吹き込んだ。

 風はベッドを覆うカーテンをひるがえし、私たちの姿を外にさらす。

 そして、声が聞こえた。


「篠塚!」


 叫ばれた名前は間違いなく私のもので、驚いた私ははためくカーテンの隙間から彼を見た。

 目が合う。

 クラスメイトの稲葉圭一が窓の向こうに立っていた。

 私を真っ直ぐに見ていた稲葉の姿は、止んだ風によってカーテンがまた覆い隠す。

 再び全てを隠したカーテンの中で、私は震えていた。