「手作りもダメ、か」


──昼休みの保健室。

保健委員の仕事の為、正方形のテーブルに向かい合って作業をしていたら聞こえてきた声。

多分、独り言だろう。

けれど、それを発した人と、内容が内容なだけに聞き流すことが出来ず。


「タルトケーキのことですか?」


私は、青い布張りの執務椅子に座る養護教諭の宝生先生に話しかけた。

すると、宝生先生はくるりと椅子ごと私の方へと向いて。


「そっか。宮原さん、昨日あの場にいたのよね」


程よく艶のある唇を動かし、すらりと長く細い足を組む。


「そうなの。椎名先生に食べてもらえなかったのよね」


僅かに肩をすくめる宝生先生。

口振りは愚痴っているようだけど、浮かべた表情は笑んでいて何だか余裕そうだ。


でも……そうなんだ。

椎名先生、あんなに美味しそうなケーキをもらったのに食べなかったんだ。

だけど……


『──クッキーうまかった』


私のは、食べてくれた。