千原 奏実さんのレビュー一覧
小さな世界と小さな愛 自分達の世界はあまりにも狭くあまりにも息苦しかった。 世の中は理不尽なことだらけ。傷だらけになりながら、嫌なことに目を背けながら、逃げて逃げてそれでもふたりは生きてきた。 だけど。 ひとりじゃないんだよ ここにいるよ ふたりの傷痕が共鳴するわけじゃない。傷だらけになりながらも生きてきたふたりの小さな勇気と強さが共鳴する。 現実はこんなにもうまくいかないかもしれない。所詮フィクションの世界なのかもしれない。 世界は綺麗なんかじゃない。狭く苦しく汚いものだってある。 でも小さな愛に気づけたなら、小さなキラキラしたものを見つけられたなら。 生きるって辛い。傷だらけになることもある。 ねぇだけど。生きててよかったっていつか思えるように。勇気と強さ、そして見つけた愛を胸に。 もう少しだけ頑張ってみようよ。
――そうして全部溶けてしまえばいい このタイトルが放つ強烈な独特の雰囲気。それに強く惹かれてしまいました。 砂糖がさらさらと崩れ落ちるような感覚なのか、熱い蝋がどろどろと伝うような感覚なのか、コーヒーに白いミルクを垂らすような感覚なのか。 タイトルだけで、この物語の"溶ける"ってどんな感じなのか、を何時間でも考えてしまうような気がします。 爽やかで清々しくて、思春期の「青色」を残していく物語。そして最後のページに書かれた「そうして全部溶けてしまえばいい」の一言。 溜息が零れて、何度も 「そうして全部溶けてしまえばいい」と呟いてしまいます。 ちょっと立ち止まってしまった時、「そうして全部溶けてしまえばいい」と呟いてみて下さい。そしてこの物語に触れてみればいい。 きっとこの物語が持つ青色に侵食されるんじゃないかな、と思います。 是非ご一読を。
男装したヒロイン ユカイすぎる生徒会の仲間達 あれ、どこかで読んだことのある設定……ベタ過ぎる! ――なんて、ナメて読んではいけない。本当に面白かった。 こんなにもヒロインがモノグサでいいのだろうか。登場人物の全員が魅力的で光っていて、ベタ過ぎる設定も気にならない。 文章も軽すぎることなく、しっかりとしていて。だけど読みやすい。 次々と起こる事件、 張り巡らされた伏線 コメディの中に隠された、ヒロインの謎 同じような設定の作品はたくさんあるけれど、その中でも絶対的に面白い。 落ち込んだ時、笑いたい時、ぜひ読んでほしい作品です。 是非ご一読を!
向き合う勇気と優しさ 過去に囚われたふたり。 ふたりが出会って感じたのは自分の抱えているものと似た孤独と痛みだった。 人間誰しも痛み抱えている。 痛みの原因が全く同じなんて、まずありえない。全てを理解出来るなんて、多分ない。 だけどきっと誰かの痛みと共鳴する時。雪解けのように少しずつ温かな優しさで溢れる。 不器用なふたりが少しずつ寄り添うように近づいて、過去と向き合う。 哀しいことはたくさんある。大きな傷痕はきっと残る。だけど確かに生まれた愛。 許したり、傷を舐めあったり、許されたりすることには何らかの愛がある。 温かなふたりの物語。 是非ご一読を。
チクリ、と僕の恋に刺した、コガネ 放課後の図書室 ゆったりと流れる時間 ふわりと浮いては沈む恋心 淡いオレンジ色に染まった小さな部屋に、自分もまるで立っているような感覚に陥りながら 読者も蜜蜂にチクリと刺された。痛い、だけど優しさに目を細めるような懐かしさに溢れる。 たった一瞬のように過ぎ去ってしまった恋だったとしても、それは痛みに似ているから。 それを胸に抱えながら、きっと僕はあなたを忘れない。 ある時には温かく降り注ぐ糧となりながら、ある時にはあの頃のアルバムの象徴となりながら。 この突き刺さった針が抜けないように、恋い焦がれたまま泣いたコガネのように。 留めどなく溢れる感情の行き先を僕は知らない。
それぞれが持つ、それぞれの色 服飾の勉強をする遥が見つけた、綺麗でえくぼが可愛いミューズ 惹かれた後に知った、彼女の障害 "恋"をして、初めて知る豊かな感情 みんなキラキラしていて色んな色を持っているから。 未熟な自分の色 完成が遠い自分の色 だからこそ、それは。 透き通っていて色んな感情に満ちた深い色になる。それらが光を反射し合って重なって出来るのは綺麗で尊い本当の"自分の色" ねぇ、僕のミューズ。 君がいるから僕は自分の色を見つけられるんだよ どんな困難があったとしてもふたりの未来はきっと明るい。ふたりの色は、お互いの想いが共鳴した"幸せの色" 素敵な作品をありがとうございました。
それは奇跡のような永遠 ――きっと、恋だと自覚すれば早かった。爽やかで切なくてほんのり甘い望んでいた恋。 彼とは本当に偶然の出会いだった。でも必然の出会い。それが例え、終わりが分かっていても期限付きだと分かっていても、確かに交わった運命の糸。 パチン、と弾ける。その一瞬。透明な泡の向こうに見えた、愛しき日々。 ゆっくりと、だけど短い夏はあっという間。だからこそ色褪せない、キラキラした思い出。 何百年も前から今へと繋がる、それは永遠ともいえる恋。 サイダーのような恋をしよう。爽やかで少し切なくて甘い。パチン、と弾けてすぐに消えてしまわないように。 大切なあなたを思い出しながら、暑い夏にあなたと過ごしたあの場所で。 もう一度だけ愛の言葉を呟いて振り返れば、それは、永遠ともいえる暑くて爽やかな夏。
たとえば、もう一度やり直せないかって。過去に戻って、もっと上手く何事もこなして上手く生きれるんじゃないかって。 人間誰しも、過去を振り返っては「あの時、ああすればよかったな」っていう後悔がある。どうして、こうすることが出来なかったのだろう。なんて捨てることなんて出来ない。 でも、後悔って悪いこと? 後悔も過去の失敗も、今と未来をつくっていて。 後悔は悪いことだけじゃないかもしれない。後悔して過去を振り返れば、もしかしたら大切な見過ごしていたものに気づくかもしれない。 過去を振り返って何が悪い。"本当に大切な何か"は過去を見つめ直さなければ分からない。 今も未来も、過去と繋がっている。今からでも本当は遅くないかもしれないから。もう一度見つめ直して。 そうしたら、今も未来ももっと輝かしいものになっていく。
本格ミステリーときどきコメディときどき感動+切なさ ――始まった事件は、容疑者がいるもののどこか不可思議だった。 魅力的でだけど怪しい容疑者ひとり。事件を追うでこぼこな刑事がふたり。 「誰かひとり嘘をついている人がいる、どこかで真実が隠されている」 社長が殺された。 犯人は一体誰なのか。 嘘があって、隠された真実があった。社長は殺された。 だけど優しさに溢れた嘘であり少し切ない真実であり。だからこそ温かい本格ミステリーに仕上がっている。 テンポよく進む少しコメディちっくな部分や、しっかりとしたミステリー。また感動するラスト。 色んな味がして贅沢すぎるこの作品を、是非ご一読を。
人間のあたたかさ 突然主人公の周りで起こり出した異常事態。 可愛い彼女、少し怪しい会社、冷たい受付嬢、魅力的な所長秘書、怪し過ぎる代表取締役。 登場人物それぞれが可愛くて愛おしい。それぞれが出す味は、コミカルであったりシリアスだったり切なさだったり。 優しくてあたたかい。 人間サイコー、って言いたくなるような。そんなミステリー。 騙されながら騙しながら、笑いつつ心に深く滲みるものに胸が締め付けられる。 ドタバタしながら進んでいくうちに、事柄の欠片に惑わされて。登場人物たちに振り回されながら、たどり着く答え。 こんな人たちに出会えればそれだけできっと幸せだ、と思わせるような。痛快で優しくてだけどしっかりしたミステリー。 ご一読下さい。
何がきっかけだったのか。思春期の彼らの歯車は徐々に徐々に噛み合わなくなっていて、小さな痛みが小さな嫉妬が大きな悪意へと変わり大きな罪を犯させた。 弱さ強さ、愛情憎悪、傲慢懺悔、罪罰。 乱れる感情、うごめく痛み。どうしようもない衝動。 逃げたくて逃げたくてしょうがなくて。もしもあんなことをしなければ、もしも無かったことに出来るならば。何度も何度もそう思いながら目を背けていた。 だけどピッタリと寄り添って来る過去と罪。決して離れない、決して逃げられない。重くて重くて背負いきれなくても尚、ついて来る。 背負うのが贖罪なのか、代償を払い償うことが贖罪なのか。答えはきっと自分自身の中にしかない。 過去を振り返るのは誰だって怖い。それが暗い暗い罪なら尚更。 だからこそ本当の勇気が此処にあったのかもしれない。だからこそ私は、決断された勇気に救われた。
灰色のモヤモヤを持て余す15歳。大人になるって、どういうことなのか。ぼんやりしたそれを掴めなくて辟易する想いが此処にあった。 誰もが抱えながら成長してきた暗くて青い想い。 "きっと誰にも理解されないだろうし、話したところで何にもならない" 日々積み重なる灰色の重いもの。だけど本当は誰かに分かってほしくて。"そうだね""頑張ったね"って。頼ったり頼られたり、支えたり支えられたり。 きっと、分かってもらえない時がある。でも分かって欲しいなら、理解されるまで頑張る必要がある。諦めないで、変わろうとする必要がある。 5人の気持ちなんて分からないかもしれない。でも少しだけ、自分の心の痛みに触れるものがあるかもしれない。 大人になるとはどういうことでしょうか きっと答えなんてなくて。でも自分なりの答えは、すぐそこにあったのだろう。
痛い真夏、切ない夜 痛みに帯びた三人が織り成す冷たい物語。 幼い愛はお互いを傷つけるだけなのか。その答えはなく、ただ揺れるようにそれぞれの道を歩く。 もしも三人がこうだったら。もしも三人がああだったら。多分そんなのは山ほどあった。でも三人はそれぞれの欲望とそれぞれの想いに忠実に、だけど純粋に。 思春期ならではの想い。痛みの行き先を彼らは分かりながらも突き進む姿は、かつての自分と重なる。 過去も未来も決して優しくはなく、冷たい水が溶けていくように胸に突き刺さるものが確かにあった。だからこそ溢れる感情とどうしようもない衝動に駆られる。 その先に、 痛みだけではない何かを見つけられれば、この作品の僅かな光に出会えるかもしれない。
好きや、って。ただそれだけでいい。 二人はいとこだった。 ふらふらしてるいとこ…かっちゃんに振り回されている優子。ダメだ、と分かりながらも深みにはまる気持ち。 どれだけ見てきたか、どれだけ好きだったか、本当は分かっているでしょう? 馬鹿、馬鹿、馬鹿。好きだからこそ言える言葉。どうしようもないいとこ、でも大切ないとこ。好きやねん、どうしようもないほどに好きやねん。そう思う自分も馬鹿かもしれへん。 ――でも馬鹿でいいやんか、自分の気持ちに素直になって真っ直ぐぶつかっていけば。 読んでいると不器用な全ての登場人物が愛おしくて、切なくも温かい、そんな気持ちで満たされました。 素敵な作品をありがとうございました。是非ご一読下さいませ。
弱さも痛みも、優しさへと繋がれば。 それは偶然と偶然の重なりだった。 財布を忘れた時、偶然助けてくれた大人の佐倉さん。偶然間違い電話をかけてきたマモル。偶然にも重なった"サクラ"という名前。 寂しさと弱さに潰されそうな亜弥に、必要なのは無償の愛を注いでくれる人。亜弥にはいなかった。亜弥には気づけなかった。 亜弥はマモルとの電話を支えにし、不毛な片思いと援助交際を続ける。 "本当の愛って何だろう、どうして人間ってこんなにも弱いのだろう" 弱さは時に人を傷つけ、優しさは時に自分を苦しめるかもしれない。弱さ故に泣き、優しさ故にどうしようもないやるせなさが溢れるかもしれない。 ――あたし達は未熟なチェリー でも本当の愛はただ見守るようにみんなを包み込む。 きっと咲いた先の未来は、温かい光に包まれている。