〔2〕


カルロスが部屋を出るのと入れ違いのように入ってきた相手。その顔に浮かんでいる表情は、どことなく疲れたようなもの。しかし、アルディスはそのことを気になどしていなかった。



「セシリア、呼付けたりしてごめんなさい」



真意は別にあるのだろう。しかし、無邪気な顔でそう言うアルディスの様子。それに、セシリアも思わず笑っているのだった。

そんなセシリアの姿にアルディスも負けてはいない。彼女もニッコリ笑うと、手に持っている包みを差し出していた。



「今日はセシリアにお願いがあるの」


「な、なんでしょうか」



大きな瞳をウルウルさせて、すっかりお願いモードになっているアルディスの姿。そして、意味ありげに差し出されている包み。

これを受け取ったら、とんでもないことがおこるかもしれない。

そう思ってみても、セシリアがアルディスの言葉を断れるはずがない。彼女は反射的に手を伸ばすと、アルディスの差し出すものを受け取っていた。

そして、セシリアが困惑しながらも受け取った。それをみたアルディスは、極上の笑顔でポツリと言っている。



「それをお兄様に渡してほしいの」


「アルフリート様に、私からですか?」



セシリアのその声には「どうして」という色が浮かんでいなくもない。そんな彼女に、アルディスはクスクス笑っているだけだった。



「わたくしから渡してもいいのよ。でも、それをするとカルロス様が嫌がるんですもの」



アルディスの言葉にセシリアはため息をつきながらも納得している。カルロスはアルディスの婚約者という立場を手に入れ、間もなく結婚式も挙げようとしている。しかし、アルフリートが妹のアルディスにベッタリだ。その事実を忘れているわけではない。

そのため、アルディスがアルフリートのことを話題にするたびに、どこか苦虫を潰したような顔になる。そのことは、アルディスの側仕えであるセシリアも、よく知っていることだった。

そういうわけならば仕方がない。そう思ったセシリアは、承知するしかないということにも気がついているのだった。



「かしこまりました。それでは、今すぐお渡ししてまいります」


「ダメ。まだ、それを渡していい時じゃないの」



アルディスに一礼し、部屋を出ようとしたセシリアをアルディスは引き止めている。そして、呼び止められた形になったセシリア。彼女はまだ何かあるのだろうか、というような顔をしているのだった。



「それは、灰の月14の日に渡してほしいの。お願いね」


「灰の月14の日ですか? どうして、そのように日時を指定なさるのですか」


「その日にお兄様に渡してくれれば、あなたのイライラも解消すると思うのよ」



思わせぶりなアルディスの言葉にセシリアは首を傾げている。一体、彼女は何を言おうとしているのだろうか。そんなセシリアの表情に気がついたのだろう。アルディスは、種明かしをするような顔を見せていた。



「侍女たちが言っていたもの。セシリアがお兄様からのプレゼントで困っているって。だから、灰の月14の日にそれを渡してほしいの。そうすれば、お兄様からのプレゼントはなくなるはずよ」


「本当ですか」



セシリアはアルフリートの求婚じみた行動によほど悩まされていたのだろう。アルディスの言葉にすっかり顔色を明るくしている。

しかし、彼女は灰の月14の日の意味を知らないのだろうか。

その日は自分の思いを相手に告げることのできる日。つまり、その日にプレゼントを渡す。それは、自分が相手に好意をもっていると叫んでいるようなものなのだ。

しかし、セシリアの様子からはそれに気がついているという気配は微塵も感じられない。それをみたアルディスは悪戯を思いついた子供のような表情でクスリと笑っているのだった。