外に出て俺が向かったのは海岸沿いの堤防…。

堤防に腰掛けて海を見つめた。

薄暗い海に灯台の光りが時々入り込む。

その日の月は三日月だった。


「ここでこうして海を眺めると素直な気持ちになれる…。」

小さい頃、親父にここへ連れて来られたとき、海を眺めながら親父が俺に言ってきた言葉を思い出した…。




「仁志、男は人前で泣いちゃいけねぇ。その事はお前もよく知ってんな?」

「うん。」

「だが男にだって泣きたくなる事もある。そん時はここに来い。」

「なんで?」

「ここは滅多に人が来ない。だから泣いてもバレやしねぇ。」

「そっか。」

「…ここでこうして海を眺めると素直な気持ちになれる。着飾ってるもん全部脱ぎ捨てて、素の自分に戻れる場所だ。他人の事なんて何も考えずに自分の事だけ思いやってやれる…そんな場所だよ、俺にとってここは。」

「父ちゃんにとって?」

「そう、父ちゃんにとって。お前にとってもそんな場所になるといいなぁ。」

微笑みながら俺の頭を撫でてそう言った親父。

その話を聞いたのは俺が小学校一年の頃だった。