必死で進む千代の後ろから、二番手でA組のあきが追い付いてきた。
 あきはちらりと後ろを見、他のクラスはかなり遅れているのを確かめると、何故か嬉しそうに目尻を下げた。

---うふふ、良い感じだわ。この分だったら、ここで千代姐さんとあたしが同率か、もしくはあたしが千代姐さんを抜けば、次は更なるデッドヒートが見られるわ……!---

 そう思い、あきはさらにスピードを上げた。
 そして、逃げる千代の背に飛びかかる。

「千代姐さんっ! ごめんなさいよっ」

 千代の背後を取ると、あきは素早く腕を取って、身体を捻った。
 背負い投げの要領で、千代を後ろに投げ飛ばす。

「お先に〜っ」

 千代を投げ飛ばし、あきは一目散にアンカーの六郎目指して駆け去った。
 
 スタート位置で六郎は、言い返すことが出来ない代わりに、真砂よりも先にスタートを切った。
 スムーズにあきから襷を受け取ると、脱兎の如く駆けて行く。

 真砂は舌打ちしつつ、結構向こうで起き上がった千代を見た。
 まだ他のクラスには追い付かれていないが、三番手のクラスがかなり近付いている。

 真砂は、ふぅ、と息をつくと、す、と千代に向かって手を差し伸べた。
 こういう場合、千代には何が一番効果的かはわかっている。

「来い」

 低く言う。
 それだけで、ぱぁっと千代の顔が輝いた。

 一旦低く沈むと、千代は地を蹴った。
 その脚力たるや、まるでサバンナを疾走するチーターのよう。
 今迄の比ではないほどの速さで、真砂に飛び込んでいく。

「真砂様あぁぁ」

 両腕を広げて突進してくる千代との距離を測っていた真砂の目が光る。
 まさに今、真砂に飛び付こうとしていた千代の胸から、伸ばした手で襷を奪うと、真砂はそのまま走り出した。

「きゃーっ! 真砂先生〜っ!!」

「頑張ってーーっ!!」

 途端に黄色い声が上がる。
 が、すでに六郎とは半周ほどの差が付いている。
 六郎だってかなりな運動神経だ。
 差は縮まらない。

「B組、くノ一隊、攻撃っ!!」

 今迄特に妨害なく来た六郎に向けて、コースの端から小さな礫が飛んできた。

「くっ!!」

 礫は小さく、避けるのは困難だ。
 少しスピードの落ちた六郎に、真砂が迫る。
 だが。

「A組くノ一隊、攻撃っ!!」

 今度は真砂に向けて、竹槍が繰り出される。

「ちっ」

 舌打ちしつつ、真砂は繰り出される竹槍を飛び越え、あるいは地に手をついてくぐり抜ける。
 この時点で、僅かに六郎との差は縮まったが、まだまだ開いている。

---ふ、貰ったな---

 走りながら、六郎の口元に笑みが浮かぶ。
 そのとき。

「真砂せんせーーっ!! 頑張ってーーーっっ!!」

 一際でかい声が、六郎の耳を打った。
 はっとして顔を上げると、あの大きな応援旗が目に入る。
 そして、それを懸命に振る深成の姿。

---み、深成ちゃん……!!---