「何という、無茶苦茶なリレーなんだ」

 呆気に取られながらも、六郎はとりあえず、自分のクラスの状況を見守った。
 そして襷は第三走者へ。
 足元に滑ってきた氷で転んだ第二走者から襷をひったくり、第三走者の千代は一目散に走り出す。

 第三走者ということは、アンカーへとバトンを繋げる立場だ。
 すなわち、真砂に襷を渡すのが千代ということ。

 己の走る先に真砂が待っていると思えば、常人とは思えない脚力が発揮される。
 一気に千代は、トップに立った。

「すごーい! 千代、頑張れ〜っ」

 ふと六郎が顔を上げると、B組の応援席から、深成が声を張り上げている。
 そしてその手には、あの応援旗。

「良かった……。無事だったんだ」

 ほ、と息をつく。
 己のクラスの生徒よりも、よっぽど心配だったようだ。

 無事とはいっても、体操服は泥だらけだし、足も傷だらけだが。
 そんな姿で一生懸命応援する深成がまた、六郎にとってはいじらしくて堪らない。

 だがそんな六郎の心を、スタート位置に向かいながら、真砂が打ち砕く。

「残念ながら、あいつの応援は俺のもんだぜ」

 心を読んだかのような言葉に、六郎は驚いた。
 同時に頭に血が上る。

「何だと! 深成ちゃんが、いくら君のクラスの生徒だとしても、今回ばかりはわからんだろう!」

「何故だ」

「弁当が賭かっている! 深成ちゃんの気持ちを拒否した君よりも、私のほうが深成ちゃんの弁当を手にする権利はある!」

「何を言ってる。俺はあいつの気持ちを拒否したことなんぞない」

「応援旗を拒否したではないか!」

「恥ずかしいと言ったんだ。ま、お前はあんな言葉を投げられたことがないから、わからんのかもしれんがな」

 ふふん、と笑う真砂に、ぐぐぐ、と六郎は口ごもった。

---た、確かにあんなこと、深成ちゃんに言われたら……---

 考えただけで、くらくらする。
 何も深成に限定する必要はないはずなのだが。

「恥ずかしいが! だが、深成ちゃんなら許す!」

「俺だって許している」

 ぐ、と拳を握って力説した六郎を、真砂はさらっと流す。
 さらに真砂は、駆けてくる千代を見ながら、何気ない風に六郎に追い討ちをかけた。

「あの旗を振って俺を応援し、俺の命じた弁当を用意してきた。全て、俺のためだ」

 ぐうの音も出ない六郎に、思いっきり馬鹿にした笑みを向け、真砂はスタート位置についた。
 千代がコーナーを曲がってくる。

 が、そこでいきなり、水風船が飛んできた。

「何のっ」

 四方八方から飛んでくる水風船を避けつつ、千代は真砂を目指す。
 だが避けていると、どうしてもスピードは落ちる。
 かといって、風船に当たるのを物ともせずに進んで行けば水浸しだ。