---てことは、やっぱり千代姐さんは、真砂課長から清五郎課長に乗り換えたわけじゃないんだ。まぁ、当たり前か---

 ひそりと思いつつ、あきはちろ、と清五郎を見た。
 清五郎は別に見られたことなど何とも思ってないようで、きょろ、と店内を見回している。
 その目が、ある一点で止まった。

「もしかして、羽月たちと飲んでたのか」

「ああ、はい。でもちょっと、ゆいちゃんが酔っ払っちゃって」

「あいつは酒癖が悪いからなぁ」

 ははは、と笑う清五郎の横で、千代がじっと遠くの捨吉たちを見る。
 あきにばれ、捨吉にまで見られてはマズいと焦っているのか、真剣な表情だ。

 だが、あまりそのようなことを、一緒にいる清五郎の前で言うべきではない、ともわかっているため、下手にあきに口止めも出来ない。

「ところで何で、千代姐さんと清五郎課長がデートしてるんです?」

 ここを突っ込んだら、千代はどんな反応をするだろう、と、少し面白く思い、あきはあえて聞いてみた。
 だがもっと激しい反応があると思ったのに、意外に千代は、ちらりとあきを見ただけだった。

「デートだったら良かったんだけどね。たまたま俺が、今日お千代さんの研修先に行く用事があったのさ。久しぶりだし、苦労してるだろうから、ま、労いだな」

 清五郎が、軽く言う。
 デートは否定したが、清五郎はそれでも良かったということか。

---相変わらず、よくわかんない人だな、清五郎課長は---

 実際よく、清五郎は千代を口説いている。
 とはいえかなりな美女である千代は、ファンも多いし、口説くといっても単なるファンの域を超えないぐらいの軽いものだ。
 清五郎は誰にでも気軽に声をかけるため、こういう風に二人で食事に行っても、いやらしさというものは感じられない。

---そういうとこ、ちょっと捨吉くんぽいよね---

 捨吉も、何をしても許されるタイプだ。
 異性の友達としては、最高だろう。

「おやおや。ゆいは、おたくの捨吉狙いか」

 清五郎の声に元の席を見れば、元々あきが座っていた捨吉の隣に、ゆいが移動している。
 ロックグラスを振りながら、何かべらべらと喋っているようだ。

「あ〜あ。あれがゆいの駄目なところだな。捨吉、思いっきり引いてるじゃないか。大丈夫かね、あのままじゃ、ゆいに食われちまうぞ」

「あそこに帰る気には、ならないですねぇ」

 困ったように言うあきに、清五郎は、椅子から降りて、一つずれた。

「しばらく俺たちと飲んでるかい? さすがにこのまま帰るのはマズいだろ。荷物もあっちだろ?」

「いいんですか? お邪魔虫しちゃって」

「女の子が増えるのは大歓迎さ」

 そう言って笑う清五郎は、やはり得体の知れない上司なのであった。