子供のように口を尖らせて文句を言う羽月を、あきはカクテルグラスの陰から、じっと見た。
 しばし真剣な表情で考える。

---羽月くんと深成ちゃんか……。う〜ん……---

 ぐるぐると、あきの脳内が活性化する。
 が。

---駄目だわ。弱い---

 妄想出来そうかどうかの基準は、なかなか厳しいようだ。

「そんな子、どうでもいいわよ」

 不意に聞こえた声に、あきは我に返った。
 ゆいは店員が持ってきた泡盛のグラスを一つ、捨吉に渡す。
 そして、それに自分のグラスを、かちんと当てた。

「ね、捨吉くん。捨吉くんは、どんなタイプが好きなの? 入社以来、特に浮いた噂も聞かないけど、まさか社外に彼女がいたりしないわよね?」

 ぐいぐいと、ゆいは捨吉に迫る。
 あきは、あらあら、と少し身を引いた。
 ゆいの目当ては、捨吉だったのか。

 ちらりと対角線上にいる羽月を見る。
 真っ赤な顔で、へらへら笑っている羽月は、多分もう記憶も怪しい。
 ゆいが捨吉狙いなら、あきは羽月という割り振りになるのだろうが、生憎あきは、さほど羽月には興味がない。

---悪い子じゃないけど、ちょっとお子様過ぎるわぁ。妄想も膨らまないような子は、ちょっとねぇ---

 あきにとって、妄想は最早生活の一部のようだ。
 やれやれ、と店内を見回したあきは、ふと店の奥に、カウンターバー的なお洒落空間があるのに気付いた。

---あら、こんな居酒屋にも、洒落たスペースがあるのねぇ---

 まぁこのメンバーなら無理よねぇ、などと思いながら、見るともなしにそちらを見ていたあきの目が、バーの端に座るカップルで止まった。

「……清五郎課長」

 思わず口に出してしまった言葉に、ゆいのアタックに困っていた捨吉と、結構酔いが回ってきたゆいが顔を向けた。

「え、な、何、どこに?」

 さささっと捨吉があきに身体を寄せる。
 逃げたい態度がバレバレだ。
 幸い酔っ払っているゆいには、気付かれていないようだが。

 初めはただゆいから逃れるためだけだったであろう捨吉が、あきの視線を追ってカウンターバーに向いた途端、目を見開いた。
 確かに清五郎だ。
 しかも、その横にいるのは……。

「千代姐さん……」

 捨吉と、あきの言葉が重なる。
 千代はここしばらく研修で、会社には来ていない。
 久しぶりの再会が、思いもかけない人物とのデート現場というのは、如何なものか。

「あ、あの二人って……」

「ち、違うんじゃないかしら。だって千代姐さんは、うちの課長にベタ惚れだし」