「あら意外。へぇ〜、そうなんだ」

 途端に目尻を下げて言うあきに、捨吉は焦った。
 この表情は、きっと誤解している。

「ち、違うよ! ほら、最近遅くまで仕事してるからさ。前にたまたま帰りが一緒になって、そのときに。いや、二人じゃないよ。真砂課長もいたしっ」

 必死で言う捨吉を、面白そうににやにやと見ていたあきの目尻が、最後の一言で一気に元に戻った。
 興味を失ったように、ごくりとカクテルを飲む。

「なぁんだ、そうなの。でも、課長と一緒っていうのも、珍しいわねぇ」

 口ではそう言いつつも、あきは心の中では、課長と深成の二人だったら面白いのに、と呟いていた。
 そう考え、ちらりと横の捨吉を見る。
 捨吉と深成の二人でも、同じような妄想は出来るだろうが、どうも捨吉相手だと弱いのだ。
 普通過ぎるというか。

---捨吉くんもそれなりだけど、妄想する分にはパンチが足りないわ---

 あくまで妄想なので、意外性があればあるほど良いのだ。
 普通の穏やかなカップルなど、妄想のネタにはならない。

 ぶつぶつと己の妄想論に浸っていたあきは、ふと、ゆいが不満そうな顔で捨吉を見ているのに気付いた。

「ゆいちゃん?」

 あきが声をかけると、ゆいは、ふぅ、と一つ息をついて、空になった日本酒の瓶を振った。
 そしてメニューに目を落とす。

「泡盛」

「ちょっとゆいちゃん。大丈夫なの?」

「大丈夫よ。まだ二杯しか飲んでないじゃん」

 何てことのないように言うが、目が据わっている。
 二杯というのも、何をもって『二』なのか。
 あくまでオーダーが二回なだけで、二杯しか飲んでないわけではない。
 しかも、一合の日本酒のほとんどを飲んでいるのだ。

「こんなんじゃ、酔いもしないって。すみませ〜ん、泡盛ロック」

 通りかかった店員に言い、ちらりと捨吉を見ると、ゆいは指を二本立てた。

「二つね」

「え、俺の?」

「そうよ〜。こいつに飲めるわけないでしょ」

 ゆいがメニューで、ばし、と羽月の頭を叩いて言う。
 そして、ずいっと机に肘をついて、身を乗り出した。

「深成って?」

「え? ああ、うちの派遣さんだよ」

「派遣? そんな子いたっけ? どんな子?」

 ずいずいっと身を乗り出す。
 やたら執拗に聞いてくるゆいに、横でほぼ寝に入っていた羽月が、ふと顔を上げた。

「あ、そういえば、せいごろ〜課長から聞いたことある。ちっちゃい女の子が入ってきたんだってぇ?」

「そうそう。その子をさ、今日誘ってたんだけど」

「え〜、何で来てないのさ〜。可愛いって、課長言ってたよぉ〜?」