「かんぱ〜い!」

 会社から一駅離れた居酒屋で、予定通り合コンは開始された。
 合コンとはいえ、いきなり招集をかけたので、少人数だ。
 捨吉とあき、隣の課から捨吉の後輩の羽月と、あきの先輩・ゆいの四人である。
 自己紹介もいらない間柄だ。

「どうよ、そっちの部署は。羽月はちゃんとやれてる?」

 捨吉がビール片手に、前に座る羽月に言う。
 羽月はまだ一年目だ。
 捨吉もまだ若手の部類で三年目。
 あきが二年目で、ゆいが一番年上の四年目だ。

「そういや捨吉くん、今度プロジェクトリーダーやるんだって?」

 ゆいが、ずい、と身を乗り出す。

「凄いよねぇ。あたしだって、まだリーダーやったことないのに。清五郎課長は、慎重なのかしら」

「優しいからさぁ、ついつい甘えちゃうんじゃない? たまにお会いするけど、うちの課長とは全然違うもの〜」

「面倒見は良いかもね。でも、あんまり甘くないよ、清五郎課長も」

 レモンハイを飲みながら、羽月が相槌を入れる。
 まだ開始早々だし、一気飲みしたわけでもないのに、すでに顔が赤くなっている。
 そんな酒に弱い羽月の横で、ゆいが日本酒を追加オーダーした。

「相変わらず、ゆいさんは強いなぁ」

 若干引き気味に言う捨吉に、ゆいは、ずいっとお猪口を差し出した。

「あんたもまぁ、それなりだけど、男は酒が飲めてなんぼよ! こんなんじゃ、出世出来ないわ!」

 捨吉にお猪口を渡した手を返して、くい、と羽月を指す。

「何だよぅ。ゆいさんみたいに飲んべな女の人なんて、引かれちゃうよ〜?」

 レモンハイは、まだ半分ほど残っている。
 なのに羽月はすでに、目も怪しい。
 すでに潰れそうな羽月に冷たい視線を投げ、ゆいは捨吉のお猪口に日本酒を注ぎ、顎で飲むよう促した。

「ゆいさん、ほんとに強いよねぇ」

 何となく逆らえない雰囲気を感じ、捨吉はお猪口に口を付けた。
 が、ちびちび飲むのを許すゆいでもない。
 じっと見られ、捨吉は仕方なく、くいーっとお猪口を干した。

「そうこなくっちゃ。ささ、飲みましょう。あき、あんたも日本酒飲む?」

「あたしは日本酒無理。カクテルにするわ」

 ゆいにお猪口を渡されないうちに、あきはカクテルを追加した。
 カクテルといっても、ジンベースの、それなりに強いものだ。

「あきちゃんは、弱くもないんだ?」

 捨吉が言うが、ゆいがすかさず顔の前で手を振る。

「弱いわよ。だって、カクテルよ? バーでもない居酒屋のカクテルなんて、どれもジュースだっつーの」

 言いつつ、さらに捨吉のお猪口に酒を注ぐ。
 ちょっと困ったように、捨吉はあきを見た。

「でも、それよりも軽いピーチ・フィズで、深成は酔っ払ってたよ」

「ん? 誰?」

 あきより早く、ゆいがずいっと顔を突き出す。

「深成ちゃん? 捨吉くん、深成ちゃんと飲みに行ったの?」

 あきが、ちょっと意外そうな顔をして言った。