いくら子供であっても、他人の、まして異性が額をくっつけることなど、普通はしないものだが。
 案の定、部屋の隅では、あきが悶絶している。

---あああああ!!! あたしも熱出したーい! 先生に診察台に押し倒されたーい! 服を剥ぎ取られて、キスされて、おでこにピトッてされたーーい!!---

 大幅に間違っている。
 やたらいやらしく変換された真砂の行動に、最早あきはふらふらだ。
 そんなあきに、真砂は冷めた目を向けた。

「おい、何をしている。さっさと点滴を用意しろ」

「あ、はいっ」

 慌てて出て行こうとするあきを、深成は必死で呼び止める。

「や~だ~! 点滴はいや~~」

「やかましい! 点滴なんぞ、一瞬針刺したら、後は寝ておくだけだろうが!」

「針刺しっぱだもん~~! 針刺したまま三十分とか放置されるなんて、信じられない!」

「信じられないなら信じさせてやる! さっさと点滴持ってこい!」

 真砂にどやされ、あきが急いで点滴の袋を持ってくる。
 そして意外にてきぱきと点滴の用意を終えると、針を真砂に手渡した。
 ひく、と深成の頬が引き攣る。

 診察台の上で、子犬のようにふるふると震える深成の腕を、真砂は無慈悲に、むんずと掴んだ。
 思わず深成が、大きく息を呑む。

「……こんなにがちがちに固まってたら、むちゃくちゃ痛いぞ」

 ただでさえふるふると震えている深成に、追い打ちをかける。
 怯えまくった目で真砂を見たあと、深成は我慢できなくなったように、ぼろぼろと涙をこぼした。

「……ふっううええぇぇ~~ん」

「泣くな。泣いたら呼吸が乱れて、余計気持ち悪くなる」

 深成が泣いても、特に表情を変えることなく、真砂はアル綿で深成の腕を消毒する。
 そして顔をしかめた。
 深成が震えすぎて、針が上手く刺さりそうにない。
 あり得ない、と思いつつ、真砂は周りを見渡した。

 ふと受付に、看護師たちが置いているキャンディーポットがあるのを思い出した。
 あきにそれを持って来させ、大きな飴玉を一つ、深成の目の前に突き出す。

「針刺すのを我慢すれば、これをやろう」

 子供どころか、幼児の扱いである。
 が、深成は、ぱ、と顔を輝かせた。
 同時に震えも、ぴたりと止まる。

「なんちゅう食い意地の張った奴なんだ……」

 呆れつつ、真砂はぷしっと深成の腕に針を刺した。
 その瞬間、深成が小さく叫んだが、無事点滴開始である。

「よし。三十分寝ておけ」

 薬液の落ちる速さを調節し、真砂は、ほれ、と先程の飴玉を、深成の顔の横に投げた。
 そして部屋を出しな、振り返ってにやりと笑う。

「言っておくがな、今そんなもん食ったら、また出るぜ」

 満面の笑みで、今にも飴玉を頬張ろうとしていた深成の動きが止まった。

「そうなると、次はこれぐらいの注射をするからな」

 立てた人差し指同士で示すその大きさは、三十センチぐらい。
 青くなって飴玉を取り落とす深成に楽しげな笑い声を残し、真砂は部屋を出ていった。

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 えっとぉ。これの深成は本編と同じぐらいの年齢かなぁ( ̄∀ ̄;)
 何か小咄を作れば作るほど、深成の年齢が下がっていく気が。そしてあきの妄想は膨らむばかり。
 小咄での捨吉の存在がやけに薄いのは、唯一まともだからかも。

 こんなドSな医者がやっていけるのは、ひとえに外見の良さでしょうなぁ。腕も良いんだろうけど。

 ちなみに三十センチの注射は、左近が実際にされたものです。
 あれは熱中症でぶっ倒れたときですから、ブドウ糖ですかね。出てきたときは、深成じゃないけどビビった(゜∀゜;ノ)ノ
 何やら薄いピンク色の液体でした。

2014/03/19 藤堂 左近