「~~っにっが~~~っ!!」

 思いっきり顔をしかめて言う深成に、馬鹿にしたように真砂は鼻を鳴らした。

「だから言ってるだろ。お子様はジュースでも飲んでおけ」

「お子様じゃないもんっ!」

 ぷんすかと怒りながら、深成は自分のグラスに口を付けた。
 さっきとは打って変わって、甘い味が広がる。

「美味しっ。これ、おかわり」

 お菓子のように甘いピーチ・フィズを、深成はごくごく飲む。

「お前はほんとに、甘いもの好きだねぇ」

 よしよしよし、と意味もなく頭を撫でながら、捨吉が言う。

「甘いもの食べてたら幸せじゃん? あ、ほら。課長はそんな苦いもの飲んでるから、難しい顔ばっかしてんのよ。ほら、これ飲んでみ?」

 どこかのCMのように、ずいっと深成が真砂に己のグラスを突き出す。
 真砂はまるでそのCMを見ているかのように、顔を思いっきりしかめた。

「そんな桃の缶詰の汁、飲めるか」

「え~? 桃缶のお汁って美味しいよ~?」

 桃缶といえば、熱が出たときの定番だね~、いやそれはちょっと古いんじゃないか~? と、へらへら笑う深成と捨吉に、真砂は少し不安になった。

「おいお前ら。大丈夫なのかよ」

「大丈夫ですっ!」

「ええ、わらわもっ!」

 二人揃って、びしっと敬礼する。
 絶対に大丈夫ではない。

「酔いつぶれても、面倒見んぞ」

「そんな、課長に迷惑をかけるようなことは致しませんっ!」

 しゃきんと背筋を伸ばして、やはり敬礼する捨吉だが、顔は真っ赤だ。
 目も据わっている。

 その横で、深成は相変わらずピーチ・フィズを飲みながら、何がおかしいのか、きゃらきゃら笑っている。
 真砂が渋面になった。

「おいこらっ。お前も課長に迷惑かけるんじゃないよ。何と言っても、課長は俺の憧れなんだから~」

「うんうん、大丈夫だよ~。だって課長は、わらわの上司だも~ん」

 全然意味がわからない。
 最後には二人で、『そうだよね~!』とわけのわからない合意をし、きゃははは、と笑いあう。

 真砂は残りのウイスキーを一気に飲むと、息をついた。

「……帰るぞ」

 席を立ち、さっさと会計を済ませる。
 このまま置いて行きたいところだが、生憎二人は自分の部下だ。

 まして深成は、派遣社員である。
 管理責任は、真砂にあるのだ。