「とりあえず深成、お疲れ様~」

 捨吉が、かちんと二人のグラスに自分のグラスを軽く合わせる。
 そして、くいーっと一気にビールを半分ほど飲んだ。

「わぁあんちゃん、強いねぇ」

 深成がちょっと驚いたように言う。
 盛り場からは外れた、小洒落たバーだ。

 深成は物珍しそうに、きょろきょろと店内を見回した。
 暗い照明に、高いカウンター。

「ああいうところで飲んでみたい。大人っぽいよねぇ」

 ちょい、と深成が、カウンターを指差した。

「やめておけ。お前なんざ、椅子に乗るのだけでも一苦労だぞ」

 あっという間に初めのビールを飲み干した真砂が、無表情で言う。
 テーブルに置かれた、おつまみ程度のオードブルを遠慮なく食べながら、深成は真砂を、ぎっと睨んだ。

「課長はいっつも、わらわを子供扱いするけどっ。わらわだって、大人なんだからねっ」

「大人だというなら、そんながっつくな」

「だってお腹空いてるんだもん。ご飯屋さんかと思ったのに」

「こんな時間にはやってない。というか、こんな時間に、そんながっつり飯食ったら太るぞ」

「元々晩ご飯食べてないんだから、大丈夫」

「お前は終始、何か食ってるしな」

 呆れたように言う真砂に、深成は目を向けた。
 よく見ている。

「何でそんなこと知ってんの」

「阿呆。お前の上司は俺だぞ。お前毎朝、自分の菓子箱、補充してるだろ」

「見られてたんだ」

 ぽりぽりと頬を掻く。
 見るも何も、深成の席は真砂のすぐ前なのだから、嫌でも目に入るだろうが。

「最近は捨吉も、こいつの菓子箱に何か入れてるな」

 真砂に言われ、あはは、と捨吉が笑う。
 捨吉はすでにご機嫌の体だ。
 この短時間で、かなり飲んでいる。

「だって深成、何でも美味しそうに食べてくれるからさぁ。見てるこっちが楽しくなってしまう。あきもよく、つられて食べてしまうってぼやいてますよ~」

「……ただ食い意地が張ってるだけだろうが。おい捨吉。飲み過ぎるなよ」

「大丈夫ですよ~。俺はまだ、ビールしか飲んでませんしっ」

 びしっと敬礼してみせる。
 そういう態度が、すでに酔っている証拠なのだが。

 そんな捨吉は、真砂の手元をまじまじと見た。
 重厚なグラスの中身は、ウイスキーの水割り。

「っかーっ! 格好良いなぁ!! 俺もそういう男になりたいっ!!」

 拳を握りしめて言う。

「深成もさぁ、ああいうカウンターで飲んでみたいのなら、これぐらい飲めないと駄目だよ」

「何、これ」

 言いながら、深成は真砂のグラスに顔を近づける。
 大した匂いはない。
 真砂が、ちょい、とグラスを傾けた。

「んにゃっ!」

 少しだけ、深成の口にウイスキーが入る。