【キャスト】
課長:真砂 派遣事務員:深成 新入社員:捨吉
※夜香花×妖幻堂『とあるベテラン営業事務員・千代の研修体験』の続編です※
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「ああああ……やっと終わったぁ!!」

 夜十時。
 フロアもすでに、照明は一角だけになったオフィスビルで、深成はべたっと今の今まで叩いていたキーボードの上に倒れ込んだ。
 その横で、今しがたプリンタが吐き出した書類に、真砂が目を落とす。

「……よし」

 ばさ、と書類を置き、とん、と紙の端を指差す。

「あとはここに社印を押して終わりだ」

 真砂に言われ、深成は捨吉が差し出した印鑑ケースの中から、いかめしい社印を取り出す。
 ぽんぽんと朱肉に叩き付け、えいやっと体重をかけて紙に押しつけた。
 そろ、と離すと、美しく押印された書類が出来上がった。

「うん、綺麗だ。お前はハンコ押すの、上手だねぇ」

 捨吉が、社印をしまいながら褒めてくれる。

「じゃ、印鑑しまってきますね」

 そう言って捨吉が印鑑ケースをしまいに去り、深成はようやく、PCの電源を落とそうと、隣にいる真砂を窺った。
 真砂は最終チェックをしている。
 ここで万が一ミスが見つかったらおしまいだ。
 一通り書類に目を通し、とん、と真砂は書類を机で揃えた。

「落としてよし」

 ちょい、と顎で深成のPCを指す。
 まるで犬扱いである。
 だが深成は、ほっと息をついた。

「良かったぁ~」

 心の底から言い、PCを落とす。
 そのとき、不意に真砂が手を伸ばした。

「ご苦労。よくやったな」

 くしゃ、と深成の髪を乱すように、頭を撫でる。
 目を大きく見開き、深成は真砂を見た。

「遅くなったな。帰るぞ」

 短く言い、自分のデスクを片付ける。
 は、と我に返り、深成も慌ててデスクを片付けた。


 当然ながら、ビルの外はもう人影もまばらだ。

「はぁ~、疲れた~」

 大きくため息をついた途端、深成のお腹が、くるるる、と鳴いた。
 そういえば、夕ご飯は結局真砂が恵んでくれたおにぎり一つだけだ。
 すでに消化している。

「あはは。そういえば、腹減りましたねぇ。課長、飯食いに行きませんか?」

 笑いながら捨吉が言う。
 真砂は、ひょいと手を挙げて、タクシーを止めた。

「しょうがないな。そんな腹鳴らしてる奴連れてるのも恥ずかしいしな」

「しょうがないじゃんっ!」

 きぃきぃ喚く深成と、宥める捨吉を連れ、真砂はタクシーに乗り込んだ。