「真砂、もう帰るの? 折角町に出たんだから、お茶して行こうよ」

「阿呆。もう駐車場から出たんだから、駐車料金がまたかかるだろうが。そういうことは、さっさと言え」

 あっさりと深成の誘いを退け、真砂はようやく、窓の外に目をやった。
 だがその視線は六郎を通り越し、捨吉に向く。

「お前も帰るだろ。さっさと乗れよ」

「あ、うん。それじゃ六郎さん、気をつけてね」

 真砂に呼ばれた捨吉が、六郎に笑顔を見せた。
 そして助手席へと回る。

「あ! 六郎兄ちゃん! ほら、もういいから行かないと! そろそろほんとに電車来ちゃうよ!」

 後部座席で散らばったお菓子を掻き集めていた深成が、窓を開けて叫ぶ。
 六郎は車に駆け寄ると、ずい、と深成に顔を寄せた。

「うん。またね、深成ちゃん。くれぐれも私の言ったことを肝に銘じて、身を守るんだよ」

「うん? ん〜、大丈夫だよ。だって真砂もあんちゃんもいるし」

 何度言っても、やはり深成には、六郎の言わんとしていることはわからない。
 にこ、と笑いながら言うが、六郎からすると、『だから心配なんだ!』と言いたいところなのだが。

 六郎はとりあえず、深成の頭を撫でると、ちょい、と奥に落ちているお菓子を指した。

「じゃあね。ほら、あんなところにも落ちてるよ」

 深成が振り向き、反対側に散らばったお菓子を取っている間に、六郎は運転席の真砂に顔を寄せた。

「君。深成ちゃんに手、出すんじゃないぞ」

 窓を覗き込むようにして、小さな声で凄む六郎に、真砂はちらりと視線を上げた。
 しばらく無表情で六郎を見、そして、馬鹿にしたように鼻を鳴らす。
 その態度に、六郎は思わずカッとなった。

「おいっ!」

 そのままエンジンをかける真砂に、六郎は食ってかかった。

「逃げるのか!」

「はぁ?」

 初めて不愉快そうに、真砂が六郎に目を向ける。

「お前の言うことなど、わけがわからん。相手をするのも馬鹿馬鹿しいから、さっさとこの場を去るだけだ。俺はそんなに暇じゃない」