「何や何や、真砂課長ともあろう者が、ぼーっとして。営業のくせに携帯が繋がらんなんてあかんで!」

「すみません」

 社長室に入るなり、ミラ子社長の叱責が飛ぶ。

「真砂課長は、どんなことでもスマートにこなさなあかん!」

「だから、初めにも言いましたが、そういう対応を望まれるのであれば、此度のことに関しては清五郎に頼んでくださればよかったんです。私は本来、そんなスマートな人間ではありません」

「わかっとるわい。さっきの『どんなこと』ってのは、仕事に関してや! 携帯の充電を忘れるような間抜けさはあかん。私生活では真砂課長にスマートさなんて求めてへん」

「だったら今からでも降ろして貰っていいですか」

「あかん。今日呼び出したのは他でもない。明日が大一番やろ」

「明日……」

 明日は土曜日だ。

「社長命令で休日まで動いて貰うのは、さすがに悪いねんけどな。しかも私用も私用やし」

 はぁ、とミラ子社長はため息をついた。
 今回社長直々に頼まれた厄介事は、仕事絡みではなく、全くの私用らしい。

「もちろん社長命令やから、代休取ってくれていいねんで」

「そんなことは、どうでもいいんですがね」

 はぁ、と真砂もため息をつく。
 その様子を、ミラ子社長は扇の向こうから眺めた。

「何や憂いを秘めた表情やな。そういう真砂課長もええけどな、何やダメージが大きいようやな。そないに強烈な子やないと思うんやけど」

「そっちはどうでもいいんです」

 ぼそ、と言った真砂に、ああ、とミラ子社長は合点がいったように呟いた。

「そういう状態もやな、ある程度は想定内やねん。そうなったときに、清五郎課長よりも、あんたのほうがいいと思ってんけど」

「何故です。あいつのほうが、全て上手くあしらえるでしょう?」

「それがあかんねん。あのな、こういう場合、清五郎課長はスマートすぎて胡散臭い。女子からしたら、信じられなくなる可能性があるねん。いくらお千代さんでも、ちょっと危ないと思ってんな。だから、あえてそういうことには不器用な真砂課長にしてんで」

 真砂は黙っている。
 苦手分野だし、人の気持ち自体をあまり考えない真砂からすると、社長の言わんとしていることも、よくわからない。

「あんたのところは大丈夫やで。それは保証するわ。何にせよ、土曜を乗り越えれば終了や。気張ってや」

 ぽん、と背中を叩かれ、真砂は浮かない顔で、また、はぁ、とため息をついた。