それから一週間後、真砂は再び社長室へ呼び出された。

「おやおや真砂課長。何やら顔色がよろしないなぁ。折角のイケメンが台無しやで」

 部屋に入るなり、ミラ子社長がずいっと真砂を覗き込む。

「まぁ掌中の珠を敵陣に送り込んでるんやし、無理もないけどな」

 にまにまと意味ありげに笑いつつ、ミラ子社長は真砂にソファを勧め、自らお茶を淹れる。

「ラテ子が宇治に行ってるからなぁ。まだお茶っ葉は来てないけど、次までには真砂課長を唸らせるお茶が完成してるはずやで」

 ほんとに茶摘みに行ったのか、と内心呆れつつ、真砂は渋面のまま出されたお茶に口を付けた。

「一課はやっぱ、派遣ちゃんがおらんで大変みたいやな」

「そうですね。時期を繰り上げて戻って来て欲しいです」

「真砂課長に『戻ってこい』と言われるとは、派遣ちゃんが心底羨ましいわ」

 清五郎であれば、ここで『社長もどこかに行かれた時は、戻って来て欲しいと思いますよ』とか爽やかに言ってのけるのだろうが、真砂は何も言わずに茶を啜った。

「で、やな。その出向もそろそろ終わりや。高山建設の社長さんも満足してくれてな、お礼がてら、合同で食事でもどうですかって話が来てん。送別会も兼ねての、やな」

「わかりました」

 意外にあっさり、真砂が頷いた。
 あの六郎のこと、どうせ送別会はするだろう。

 深成もさすがにそれは断れないと思う。
 だったら合同でやったほうが安全だ。

「うんうん。それじゃあこっちは派遣ちゃんと羽月やから、営業部の一課と二課が参加、てことにしよか。来週の週末で調整しとくから、皆に連絡しといてや」

「承知しました。ではそのように、清五郎にも伝えておきます」

 そう言って頭を下げると、さっさと真砂は社長室を後にした。



 同じ頃、高山建設の面々にも同様の内容のメールが送信された。

「合同送別会……」

 メールを開いた六郎が、僅かに顔を曇らせる。
 その前で、深成が顔を輝かせた。

「送別会はmira商社との合同だって。一課と二課ってことは、課長も来るよね。良かったぁ」

 にこにこと、隣の羽月に言う。

「そうだね。会社として誘われてるんだから、課長たちは絶対だよね。あ、ゆいさん、きっと喜ぶだろうな」

 羽月も嬉しそうだ。
 清五郎を慕っているからだろう。
 捨吉とも仲良しだ。

「六郎さん。ゆいさん、最近こっちの案件に入ってるんですよね。仲良くしてあげてくださいね」

 羽月が六郎に言う。
 ライバル故か、六郎の感情がダダ漏れなのか、羽月は何となく六郎の気持ちを察しているらしい。
 さっさと深成から引き剥がすべく先手を打ったようだ。
 真砂のことは、恐ろしくてまともに見られないので気付かないのだろう。

「え? あ、でも私は当日、深成ちゃんを皆から守らないとだし。一応社長から頼まれてるんだしね」

「それは大丈夫。だって当日はわらわ、課長が来てくれるもん」

 六郎が言うが、そこはすかさず深成本人にがっつり突き落とされる。
 しかもめちゃくちゃ嬉しそうだ。

「さ、あと少しだし、早く終えて課長のところに帰ろうっと」

「そうだね。何だかんだで、あっという間だったよねぇ」

 目の前で落ち込んでいる六郎のことなど見もせずに、深成と羽月はうきうきと仕事をこなしていった。