「ずっと見てればわかるもの?」

「う~ん、何か綺麗になったかな、とは思ったよ。いや、綺麗というより、う~ん……女の子らしさが増したかなって感じかな」

 そう敏感でもない捨吉がそう思うということは、結構な変化なのではないだろうか。
 そしてそれが、千代言うところの『愛されホルモン』なのだとしたら……。

---あたしはまだまだ出てないってことよねぇ---

 何の変化もないということは、そういうことなのだろう。

---ま、あたしだって捨吉くんに『愛されてる!』とは思わないもの---

 好かれている、とは思うが、愛されている、というのは、そうそう感じられないものではないだろうか。
 あき自身だって、捨吉を『愛している』とは言えない。
 まだそこまでではないと思うのだ。

---でも深成ちゃんは違うわね……。お互い愛し合ってるって感じだわ---

 うわー、凄い! と内心興奮していると、前方から、激しい水音が聞こえて来た。

「あ、滝だ。わぁ、思ってたより大きいみたいね」

 たたた、と捨吉を引っ張って、あきが小走りになった。
 その足が、はた、と止まる。
 滝壺の横に張り出した岩場に、真砂と深成がいる。

「真砂っ。ここに立ったら、凄い飛沫がかかるよ。マイナスイオンだね~」

 流れ落ちる滝のすぐ横で、深成が手を広げてはしゃいでいる。

「あんまり端に寄るな。落ちるぞ」

「わらわが落ちたら、真砂、飛び込んでくれる?」

「当たり前だろ」

 ちらりと真砂を窺うように言った深成に、考えることなく当然のように真砂が返す。
 途端に深成は、がばっと真砂に抱きついた。

「うわーい! 真砂、大好き~!」

「落ちる前に受け止めてやるがな」

 抱き付く深成を軽く受け止めながら、真砂が言う。
 それを、あきと捨吉は少し離れたところで眺めていた。

「……すっごいなぁ……」

 心底感心したように、捨吉が言う。

「あれほど二人でいるのが自然に見えるカップルも、そうないよね。あんなにべったりくっついてるのに、変ないやらしさもない。何か、凄い、としか言いようがないよ」

「そうね……。羨ましいわ」

 思わず口から出た言葉に、捨吉が、あきを見た。
 あ、と慌ててあきは言い繕う。

「いや、羨ましいっていうか。う~ん、何か究極じゃない? あそこまでなるのは理想だから、そりゃ羨ましいけど、普通はあそこまでなれないよね」

 あははは、と笑って誤魔化す。
 そんなあきをしばらく見、捨吉は前方に視線を戻すと、ぽつりと呟いた。

「俺だって、あきちゃんが落ちたら飛び込むよ」

 ん、とあきは捨吉を見た。
 さすがに抱き付く勇気はない。
 代わりにあきは、きゅ、と繋いだ手に力を入れた。
 にこりと笑う。

「うん、ありがとう」



 そしてそんな青い二人を、対岸から清五郎と千代が、温い目で見ていた。

「……ったく、見てて痒くなるほどの青さだな」

「まさに青春って感じですわね。真砂課長のほうは見てて面白いですけど、あの二人はじれったいですわねぇ」

 駐車場から皆と反対方向に少し行ったところに飛び石があり、対岸に渡れるようになっていた。
 そこを通って、千代たちは対岸の散策路を滝のほうへ歩いて来たのだ。

「ああいうところを見ると、ゆいの強引さが必要かもなぁ、とも思うんだよなぁ」

「あきも深成みたいに、捨吉に甘えてみればいいのに。捨吉も深成のあしらいは慣れてるんだから、もしかしたらいい雰囲気になるかも……」

 自分で言いつつも、千代は首を傾げた。
 そんな二人の下のほうでは、相変わらず深成がきゃっきゃきゃっきゃはしゃぎながら、真砂に甘えている。

「……う~ん……。いや、あれは深成だから許されるのかも。あきがいきなりあんな風に抱き付いたら、捨吉は固まって、変な雰囲気になる可能性のほうが高いかもしれませんねぇ」

「そう……かもなぁ。確かに派遣ちゃんは全く違和感ないが、お千代さんだって許されるぜ?」

「そうですか?」

 面白そうに清五郎を見上げ、千代はそろりと彼に身を寄せた。
 そして、清五郎の腕に自分の腕を絡ませる。

「深成の気持ちがわかりますわ」

「何となく俺たちのほうが、恋人としては正しいような気がするが、女子の気持ちは同じってことか?」

 真砂と深成は、べったりくっついていても、それは恋人というより親子的というか。
 飼い主と犬とか、そういう感じで自然ではあるが甘さはない。
 清五郎と千代だと、腕を組んでいると恋人として完璧な雰囲気だ。

「そうですわね。安心して頼れるといいますか。引っ付いていると安心しますわ」

「お千代さんに頼られるとは光栄だね。でもどうせなら」

 そう言って、清五郎は千代の腕を解くと、自分の腕を千代の肩に回した。

「こっちのほうが、俺は好きかな」

「あら。ふふ、これもいいですわね」

 手を清五郎の背に回し、千代が笑う。
 何だかんだで、それぞれ相手との距離を縮めたようだ。