そんなこんなで次の日。
朝ごはんを食べて、一行は出発した。
昨日の渓谷の下流のほうで、川沿いの駐車場に車を止める。
「さて、じゃあ、今日はそれぞれ別行動だな。昼飯も別でいいかな。散策路がどれほどあるのかわからんし、慌ただしいのも嫌だしな」
「そうだな。じゃあ二時ぐらいにここでいいか」
清五郎と真砂が言い、当たり前のように千代と深成を連れて行く。
「じゃああきちゃん。俺たちも行こう」
捨吉も、普通にあきを誘った。
少し向こうに散策路の案内板がある。
「課長~。下に降りようよ。川沿い歩いたほうが楽しいよ?」
「そんなとこ歩いたら、目を離すとお前、川に入りそうだ」
案内板の前で、深成と真砂が言い合っている。
その深成の手は、真砂の腕を掴んでいる。
まだ引っ付いてはいないが、散策を始めたらくっつくのだろうなぁ、と、あきは二人を眺めた。
「あの二人が川沿いに行くなら、俺たちは少し上の森林コースに行こうか」
「そうね。先に滝があるみたい。カメラ持って来ればよかったな」
それぞれのカップルを観察するのも楽しそうだが、ここは自分のことに集中しようと、あきにしては珍しく、レーダーに蓋をした。
というのも、どうやら最も仲が進展していないのは自分たちのようなのだ。
---まぁ深成ちゃんも千代姐さんも、相手が結構大人だからってのもあると思うけど---
そういうことも慣れてそうな千代はともかく、深成の場合は相手が真砂だからというのが大きいのではないか?
例えば深成と捨吉だと、それこそ何も変わらずいつも通りはしゃいでいるだけではないだろうか。
---いや、案外軽くキスとかしそう。考えてみれば深成ちゃんって、ちゅ、と軽くするキスとか自然にできそうじゃない? それこそ挨拶のノリでさ~---
ハグだって自然にできる子だ。
しかも何のいやらしさもない。
ちら、とあきは振り返って、川沿いを探した。
向こうのほうに、真砂と深成が見える。
思った通り、深成は真砂に、ぺとりとくっついていた。
---あの状態でも違和感ないのよね。甘やかな雰囲気もないんだけど、自然というか---
多分深成の見た目が幼いし、背も小さいからだろう。
さすがに千代だと、ちょっと違うと思うのだ。
いかにも恋人、という甘い空気がやたらと出るというか。
---千代姐さんのほうは、腕を組むというよりは手を繋ぐほうかな。さりげない触れ合いのほうが自然に見えるわ---
きょろ、と辺りを見回してみるが、千代と清五郎の姿はない。
「あきちゃん? どうかした?」
捨吉に言われ、は、とあきは我に返った。
折角自分のことに集中しようと思ったのに、結局思考は他の二人のほうに向いている。
いかんいかん、と頭を振り、あきは少し前を歩いていた捨吉に駆け寄った。
少し考えて、捨吉の腕に自分の腕を絡ませてみる。
捨吉が、驚いた顔をした。
「う~ん……。やっぱり何か違うかなぁ」
そう呟いて、すぐにあきは手を放す。
「え、何が?」
いきなりなあきの行動に、照れたような顔で、捨吉が言う。
一瞬だが、あきから腕を組んだのだ。
「いや、そういえば、腕を組んでるカップルってそういないけど、深成ちゃんは課長の腕に思いっきり引っ付いてたな、と思って。腕組むって、どんな感じなのかなって」
「あ、ああ。そういやそうだね」
納得したように言い、捨吉は意味なく、あはは、と笑った。
が、すぐに、ぱ、と手を差し出す。
「けど俺は、手を繋ぐほうが好きだな」
「どうして? 腕を組んだほうが、確かに密着度は高いよ?」
「うん、でもさ」
言いつつ、きゅ、とあきの手を握る。
「腕を組むのは一方通行じゃない。まぁ女の子に頼られてる感はあるけど。男のほうは何もしないでしょ。でも手を繋ぐのはさ、お互いがお互いの手を握るっていう感じがするんだ」
「そっか、そうね」
にこ、と笑い、あきも、きゅ、と捨吉の手を握り返した。
「そういえばさぁ。ゆいさん、高山建設に食い込んでるみたいだね」
「え、そうなの? 最近ゆいちゃん忙しそうで、全然知らないな」
「何でもさぁ、あの、うちに来てた六郎さんに目を付けて、張り切ってるらしいよ。動機は不純と言えば不純だけど、ゆいさんはそういうのがあったほうが頑張るみたいで、結構評判いいみたい」
「あはは。それはそうかも。へー、そうか。あの人に目を付けたんだぁ~」
若干あきの目尻が下がる。
そういえば、高山建設との親睦旅行で、ゆいは六郎にがっつり食いついていた。
「でも六郎さん、深成ちゃんのこと好きだったわよねぇ」
「そうだっけ。でもまぁ、深成は無理だよね」
捨吉は六郎が深成を好いていたことには気付いていないようだ。
---まぁ、あんまりあからさまではなかったかな。じっと観察してればわかるけど。捨吉くんは、そんな六郎さんに興味もなかっただろうしね---
「羽月も深成を好いてるしなぁ。あの辺て、真砂課長のこと全然気付かないんだね」
「それに、深成ちゃんに彼氏がいるとも思わないんじゃない?」
「そっか、それはあるかも。羽月も六郎さんも、深成をずっと見てるわけでもないしね」
朝ごはんを食べて、一行は出発した。
昨日の渓谷の下流のほうで、川沿いの駐車場に車を止める。
「さて、じゃあ、今日はそれぞれ別行動だな。昼飯も別でいいかな。散策路がどれほどあるのかわからんし、慌ただしいのも嫌だしな」
「そうだな。じゃあ二時ぐらいにここでいいか」
清五郎と真砂が言い、当たり前のように千代と深成を連れて行く。
「じゃああきちゃん。俺たちも行こう」
捨吉も、普通にあきを誘った。
少し向こうに散策路の案内板がある。
「課長~。下に降りようよ。川沿い歩いたほうが楽しいよ?」
「そんなとこ歩いたら、目を離すとお前、川に入りそうだ」
案内板の前で、深成と真砂が言い合っている。
その深成の手は、真砂の腕を掴んでいる。
まだ引っ付いてはいないが、散策を始めたらくっつくのだろうなぁ、と、あきは二人を眺めた。
「あの二人が川沿いに行くなら、俺たちは少し上の森林コースに行こうか」
「そうね。先に滝があるみたい。カメラ持って来ればよかったな」
それぞれのカップルを観察するのも楽しそうだが、ここは自分のことに集中しようと、あきにしては珍しく、レーダーに蓋をした。
というのも、どうやら最も仲が進展していないのは自分たちのようなのだ。
---まぁ深成ちゃんも千代姐さんも、相手が結構大人だからってのもあると思うけど---
そういうことも慣れてそうな千代はともかく、深成の場合は相手が真砂だからというのが大きいのではないか?
例えば深成と捨吉だと、それこそ何も変わらずいつも通りはしゃいでいるだけではないだろうか。
---いや、案外軽くキスとかしそう。考えてみれば深成ちゃんって、ちゅ、と軽くするキスとか自然にできそうじゃない? それこそ挨拶のノリでさ~---
ハグだって自然にできる子だ。
しかも何のいやらしさもない。
ちら、とあきは振り返って、川沿いを探した。
向こうのほうに、真砂と深成が見える。
思った通り、深成は真砂に、ぺとりとくっついていた。
---あの状態でも違和感ないのよね。甘やかな雰囲気もないんだけど、自然というか---
多分深成の見た目が幼いし、背も小さいからだろう。
さすがに千代だと、ちょっと違うと思うのだ。
いかにも恋人、という甘い空気がやたらと出るというか。
---千代姐さんのほうは、腕を組むというよりは手を繋ぐほうかな。さりげない触れ合いのほうが自然に見えるわ---
きょろ、と辺りを見回してみるが、千代と清五郎の姿はない。
「あきちゃん? どうかした?」
捨吉に言われ、は、とあきは我に返った。
折角自分のことに集中しようと思ったのに、結局思考は他の二人のほうに向いている。
いかんいかん、と頭を振り、あきは少し前を歩いていた捨吉に駆け寄った。
少し考えて、捨吉の腕に自分の腕を絡ませてみる。
捨吉が、驚いた顔をした。
「う~ん……。やっぱり何か違うかなぁ」
そう呟いて、すぐにあきは手を放す。
「え、何が?」
いきなりなあきの行動に、照れたような顔で、捨吉が言う。
一瞬だが、あきから腕を組んだのだ。
「いや、そういえば、腕を組んでるカップルってそういないけど、深成ちゃんは課長の腕に思いっきり引っ付いてたな、と思って。腕組むって、どんな感じなのかなって」
「あ、ああ。そういやそうだね」
納得したように言い、捨吉は意味なく、あはは、と笑った。
が、すぐに、ぱ、と手を差し出す。
「けど俺は、手を繋ぐほうが好きだな」
「どうして? 腕を組んだほうが、確かに密着度は高いよ?」
「うん、でもさ」
言いつつ、きゅ、とあきの手を握る。
「腕を組むのは一方通行じゃない。まぁ女の子に頼られてる感はあるけど。男のほうは何もしないでしょ。でも手を繋ぐのはさ、お互いがお互いの手を握るっていう感じがするんだ」
「そっか、そうね」
にこ、と笑い、あきも、きゅ、と捨吉の手を握り返した。
「そういえばさぁ。ゆいさん、高山建設に食い込んでるみたいだね」
「え、そうなの? 最近ゆいちゃん忙しそうで、全然知らないな」
「何でもさぁ、あの、うちに来てた六郎さんに目を付けて、張り切ってるらしいよ。動機は不純と言えば不純だけど、ゆいさんはそういうのがあったほうが頑張るみたいで、結構評判いいみたい」
「あはは。それはそうかも。へー、そうか。あの人に目を付けたんだぁ~」
若干あきの目尻が下がる。
そういえば、高山建設との親睦旅行で、ゆいは六郎にがっつり食いついていた。
「でも六郎さん、深成ちゃんのこと好きだったわよねぇ」
「そうだっけ。でもまぁ、深成は無理だよね」
捨吉は六郎が深成を好いていたことには気付いていないようだ。
---まぁ、あんまりあからさまではなかったかな。じっと観察してればわかるけど。捨吉くんは、そんな六郎さんに興味もなかっただろうしね---
「羽月も深成を好いてるしなぁ。あの辺て、真砂課長のこと全然気付かないんだね」
「それに、深成ちゃんに彼氏がいるとも思わないんじゃない?」
「そっか、それはあるかも。羽月も六郎さんも、深成をずっと見てるわけでもないしね」