そんなこんなで旅行当日。
ロータリーに入って来たVELLFIREに乗り込んで、六人は一路目的地へと向かった。
「先に紅葉の渓谷に行って、そこで飯食おう」
「うわーい、楽しみー」
車が山に入ると、深成が窓にへばりつく。
「渓谷ってことは、まだまだ山の中なんですか?」
捨吉も、窓の外を見ながら言う。
まだそんなに登っていないので、そう景色が変わった感じもないが。
「そうだな。昼前ぐらいかな、着くのは」
「わらわ、もみじ饅頭食べたい」
「こら深成。それは地域の名産であって、紅葉の場所にあるんじゃないんだよ」
捨吉とどうでもいい会話をしている間に、どんどんと車は山に入って行った。
「うっひょおおおぉぉぉ~~~!!」
車から降りるなり、深成が叫び声を上げて、てててーっと駆けて行く。
目の前には真っ赤なパノラマが広がっている。
「きれーい! 真っ赤っかだぁ~~」
渓谷の上にせり出して造られている展望デッキから身を乗り出し、深成が叫ぶ。
もう紅葉も終わりなので、色づきもMAXだ。
「あんまり乗り出すな。落ちるぞ」
真砂が歩み寄り、さりげなく深成の腰を掴む。
「すっごいねぇ。穴場だね~。下の川に紅葉が映って、絵みたい。ねぇ、ま……課長」
はしゃぎながら言っていた深成が、いきなり素に戻った。
うっかり『真砂』と呼ぶところだった。
危ない危ない、と密かに口を押え、ちらりと真砂を見上げる。
「……気を付けろよ」
ぼそ、と真砂が言う。
落ちないように気を付けろ、ということか、呼び方に気を付けろ、ということか。
どちらとも取れる言い方だが、深成はこくりと頷いた。
それを、横からあきがにまにまと見る。
「あそこのレストハウスで飯食おう」
渓谷に面した駐車場の端に、お土産物屋がある。
そこの二階が食事処のようだ。
「う~ん、折角紅葉が綺麗だから、もみじおろしのおうどん食べたいけど」
「深成、辛いの苦手だろ? もみじおろしなんて食べられないと思うよ」
「そっか。じゃあどうしよっかな。このおにぎり定食にしようかな」
捨吉とメニューを睨みながら、深成は結局おにぎりとうどんのセットにした。
二階の食事処からも、紅葉はばっちり見える。
「凄いいいところですねぇ。人は少ないし」
あきが感心したように言うと、清五郎はちょっと肩を竦めた。
「たまたまドライブしてるときに見つけたのさ。日帰りできないこともない距離だし」
「清五郎課長、ドライブするんですね」
途端にあきの目尻が下がる。
そのドライブは一人でか? という目で見るが、清五郎はそんな邪な視線もさらりと流す。
「俺は結構車好きだしな。運転も苦ではないよ」
「人に運転して貰うよりも、自分でしたい派ですかぁ」
「車持ってる奴は、大抵そうじゃないか? 男だからかな?」
清五郎が話を振ると、捨吉は、う~ん、と首を傾げた。
「俺は別に拘りはないですけど。して貰えるなら甘えるかも。あ、でも女の子の前では格好つけたいかな」
へら、と笑う。
「真砂も基本的には自分でする派だろ。そういやあきちゃんとか、免許持ってるのか?」
「一応持ってますよ。ペーパーですけど」
「お千代さんも持ってたな。派遣ちゃんは?」
「わらわ、持ってない」
「お前が持ってるとは思ってない」
おにぎりにかぶりつきながら言う深成の前で、真砂が当たり前のように突っ込む。
「何でさっ」
「お前が運転する車なんて、恐ろしくて乗れるか。ゴーカートで十分だ」
それでも怖い、と付け足す真砂に、清五郎は、ははは、と笑い声を上げた。
「なるほど。じゃ、今度サーキットでも行くか? 皆で競争するのも楽しそうだ」
「えー、結果わかりきってるじゃないですかぁ」
不満の声を上げるあきだが、清五郎は、ちちち、と指を振る。
「わからんぜ。意外に派遣ちゃんがスピード狂かもしれんし」
「そんな妙な才能を開花させないでくれ」
「おや、そうだな。真砂からしたら心配だよな」
さらりと意味深なことを言われ、尚も不満そうだった深成は、少し赤くなって黙り込んだ。
そのまま、もしゃもしゃとおにぎりを頬張る。
「ま、穏やかにいくならゴーカートだな。となると遊園地か。そういや大人になってから遊園地なんて、とんと行ってないなぁ」
「そうですねぇ。清五郎課長も真砂課長も、遊園地ってイメージないし」
言いつつ、あきはまじまじと二人を見た。
清五郎は千代とのデートでも、遊園地チョイスはないだろう。
千代も遊園地というイメージはない。
が、真砂はどうだろう。
真砂単体では絶対ない場所だが、何せ相手は深成である。
大人が乗るには恥ずかしさダントツであろうメリーゴーランドに乗りたがるお子様ではないか。
---真砂課長、深成ちゃんがメリーゴーランドに乗りたいって言ったら乗ってあげるのかしら? うわー、真砂課長とメリーゴーランド……。ウケる---
くくくく、と下を向いて笑いを噛み殺す。
---その点、清五郎課長と千代姐さんだったら、浮くことは浮くけど絵になるかも。王子様とお姫様って感じで。きらきらなメリーゴーランドに、ぴったり嵌るカップルかも? 真砂課長と深成ちゃんは、お父さんと子供って感じ? 普通それだと、それこそ違和感ないはずなんだけど、真砂課長が致命的にそういうきらきらに似合わないのよねぇ---
でもやっぱりウケる、とにやにやが止まらないあきの横で、千代が窓の外を見た。
「確かに、この歳になったら遊園地よりも、こういう景色を楽しむようなところのほうがいいよ」
「わらわも、遊園地よりは水族館とか動物園とかのほうがいい」
「あれ深成。あんた若いのに、そうなの?」
千代が意外そうに言う。
「若いっても、千代だってそんな歳じゃないじゃん。わらわ、絶叫マシン乗れないし」
「ああ、小さいからな」
納得したように頷く真砂に、すかさず深成はおにぎりを突き出した。
おにぎりで口を塞ごうとしたらしい。
「身長制限じゃないっつーの! 単に怖いんだもんっ」
「どっちにしろお子様だ」
深成が突き出したおにぎりを、ひょい、と取り、真砂がぱくりと口に入れる。
お? とあきの目が輝いた。
「わらわのおにぎりーっ」
「まだもう一つあるだろうが」
鬱陶しそうに言いながら、真砂は深成の食べかけのおにぎりを平らげる。
---何だかんだ言っても仲睦まじいわねぇ。課長も普通、食べかけじゃないほうを取るものなのに、自然に深成ちゃんの食べかけを食べてるし---
にまにましながら、それにしても、とあきは、ちらりと清五郎と千代を見た。
---こっちゃ全然わかんないわ。仲が進展してんのかもわかんない---
真砂のように、あからさまに構うわけでもない。
厳密に言うと、真砂だって深成を構うのは会社と変わらない。
真砂がからかう→深成が突っかかる、という応酬は昔からだ。
が、そこにちょいちょい甘い行動が入る。
それは今までなかったことだ。
---あ~、でも。一番変わってないのは、あたしたちかもね---
前でとんかつ定食を食べる捨吉に目をやり、ふぅ、とあきはため息をついた。
ロータリーに入って来たVELLFIREに乗り込んで、六人は一路目的地へと向かった。
「先に紅葉の渓谷に行って、そこで飯食おう」
「うわーい、楽しみー」
車が山に入ると、深成が窓にへばりつく。
「渓谷ってことは、まだまだ山の中なんですか?」
捨吉も、窓の外を見ながら言う。
まだそんなに登っていないので、そう景色が変わった感じもないが。
「そうだな。昼前ぐらいかな、着くのは」
「わらわ、もみじ饅頭食べたい」
「こら深成。それは地域の名産であって、紅葉の場所にあるんじゃないんだよ」
捨吉とどうでもいい会話をしている間に、どんどんと車は山に入って行った。
「うっひょおおおぉぉぉ~~~!!」
車から降りるなり、深成が叫び声を上げて、てててーっと駆けて行く。
目の前には真っ赤なパノラマが広がっている。
「きれーい! 真っ赤っかだぁ~~」
渓谷の上にせり出して造られている展望デッキから身を乗り出し、深成が叫ぶ。
もう紅葉も終わりなので、色づきもMAXだ。
「あんまり乗り出すな。落ちるぞ」
真砂が歩み寄り、さりげなく深成の腰を掴む。
「すっごいねぇ。穴場だね~。下の川に紅葉が映って、絵みたい。ねぇ、ま……課長」
はしゃぎながら言っていた深成が、いきなり素に戻った。
うっかり『真砂』と呼ぶところだった。
危ない危ない、と密かに口を押え、ちらりと真砂を見上げる。
「……気を付けろよ」
ぼそ、と真砂が言う。
落ちないように気を付けろ、ということか、呼び方に気を付けろ、ということか。
どちらとも取れる言い方だが、深成はこくりと頷いた。
それを、横からあきがにまにまと見る。
「あそこのレストハウスで飯食おう」
渓谷に面した駐車場の端に、お土産物屋がある。
そこの二階が食事処のようだ。
「う~ん、折角紅葉が綺麗だから、もみじおろしのおうどん食べたいけど」
「深成、辛いの苦手だろ? もみじおろしなんて食べられないと思うよ」
「そっか。じゃあどうしよっかな。このおにぎり定食にしようかな」
捨吉とメニューを睨みながら、深成は結局おにぎりとうどんのセットにした。
二階の食事処からも、紅葉はばっちり見える。
「凄いいいところですねぇ。人は少ないし」
あきが感心したように言うと、清五郎はちょっと肩を竦めた。
「たまたまドライブしてるときに見つけたのさ。日帰りできないこともない距離だし」
「清五郎課長、ドライブするんですね」
途端にあきの目尻が下がる。
そのドライブは一人でか? という目で見るが、清五郎はそんな邪な視線もさらりと流す。
「俺は結構車好きだしな。運転も苦ではないよ」
「人に運転して貰うよりも、自分でしたい派ですかぁ」
「車持ってる奴は、大抵そうじゃないか? 男だからかな?」
清五郎が話を振ると、捨吉は、う~ん、と首を傾げた。
「俺は別に拘りはないですけど。して貰えるなら甘えるかも。あ、でも女の子の前では格好つけたいかな」
へら、と笑う。
「真砂も基本的には自分でする派だろ。そういやあきちゃんとか、免許持ってるのか?」
「一応持ってますよ。ペーパーですけど」
「お千代さんも持ってたな。派遣ちゃんは?」
「わらわ、持ってない」
「お前が持ってるとは思ってない」
おにぎりにかぶりつきながら言う深成の前で、真砂が当たり前のように突っ込む。
「何でさっ」
「お前が運転する車なんて、恐ろしくて乗れるか。ゴーカートで十分だ」
それでも怖い、と付け足す真砂に、清五郎は、ははは、と笑い声を上げた。
「なるほど。じゃ、今度サーキットでも行くか? 皆で競争するのも楽しそうだ」
「えー、結果わかりきってるじゃないですかぁ」
不満の声を上げるあきだが、清五郎は、ちちち、と指を振る。
「わからんぜ。意外に派遣ちゃんがスピード狂かもしれんし」
「そんな妙な才能を開花させないでくれ」
「おや、そうだな。真砂からしたら心配だよな」
さらりと意味深なことを言われ、尚も不満そうだった深成は、少し赤くなって黙り込んだ。
そのまま、もしゃもしゃとおにぎりを頬張る。
「ま、穏やかにいくならゴーカートだな。となると遊園地か。そういや大人になってから遊園地なんて、とんと行ってないなぁ」
「そうですねぇ。清五郎課長も真砂課長も、遊園地ってイメージないし」
言いつつ、あきはまじまじと二人を見た。
清五郎は千代とのデートでも、遊園地チョイスはないだろう。
千代も遊園地というイメージはない。
が、真砂はどうだろう。
真砂単体では絶対ない場所だが、何せ相手は深成である。
大人が乗るには恥ずかしさダントツであろうメリーゴーランドに乗りたがるお子様ではないか。
---真砂課長、深成ちゃんがメリーゴーランドに乗りたいって言ったら乗ってあげるのかしら? うわー、真砂課長とメリーゴーランド……。ウケる---
くくくく、と下を向いて笑いを噛み殺す。
---その点、清五郎課長と千代姐さんだったら、浮くことは浮くけど絵になるかも。王子様とお姫様って感じで。きらきらなメリーゴーランドに、ぴったり嵌るカップルかも? 真砂課長と深成ちゃんは、お父さんと子供って感じ? 普通それだと、それこそ違和感ないはずなんだけど、真砂課長が致命的にそういうきらきらに似合わないのよねぇ---
でもやっぱりウケる、とにやにやが止まらないあきの横で、千代が窓の外を見た。
「確かに、この歳になったら遊園地よりも、こういう景色を楽しむようなところのほうがいいよ」
「わらわも、遊園地よりは水族館とか動物園とかのほうがいい」
「あれ深成。あんた若いのに、そうなの?」
千代が意外そうに言う。
「若いっても、千代だってそんな歳じゃないじゃん。わらわ、絶叫マシン乗れないし」
「ああ、小さいからな」
納得したように頷く真砂に、すかさず深成はおにぎりを突き出した。
おにぎりで口を塞ごうとしたらしい。
「身長制限じゃないっつーの! 単に怖いんだもんっ」
「どっちにしろお子様だ」
深成が突き出したおにぎりを、ひょい、と取り、真砂がぱくりと口に入れる。
お? とあきの目が輝いた。
「わらわのおにぎりーっ」
「まだもう一つあるだろうが」
鬱陶しそうに言いながら、真砂は深成の食べかけのおにぎりを平らげる。
---何だかんだ言っても仲睦まじいわねぇ。課長も普通、食べかけじゃないほうを取るものなのに、自然に深成ちゃんの食べかけを食べてるし---
にまにましながら、それにしても、とあきは、ちらりと清五郎と千代を見た。
---こっちゃ全然わかんないわ。仲が進展してんのかもわかんない---
真砂のように、あからさまに構うわけでもない。
厳密に言うと、真砂だって深成を構うのは会社と変わらない。
真砂がからかう→深成が突っかかる、という応酬は昔からだ。
が、そこにちょいちょい甘い行動が入る。
それは今までなかったことだ。
---あ~、でも。一番変わってないのは、あたしたちかもね---
前でとんかつ定食を食べる捨吉に目をやり、ふぅ、とあきはため息をついた。