その頃、六郎は本館の外側に組んだ足場にいた。
工事は順調に進んでいるし、旅館ということもあり、夜間は基本的に本館は立ち入り禁止だ。
が、生真面目な六郎は、その日に施工したところをきちんとチェックしないと気が済まない。
よって毎晩いちいち見回りをしているのだ。
---うん、特に問題はないな。これなら工期にも影響はないだろう---
本館の一番上に組まれた足場の端っこで、六郎は満足げに頷いた。
よっこらしょ、と屈んでいた身体を起こそうとしたとき、ぱしゃ、と水音が聞こえた。
---ああ、別館の最上階は、部屋に露天があるんだったな---
本館と別館の端っこは、当然繋がっているので近い。
L字型の外側に露天なので、通常であれば当然見えないのだが、足場は建物の外側に組むものだ。
いつもより出っ張ることになるので、部屋の露天が若干見える。
もちろんそれは問題なので、足場には防音用のシートを張り、露天も端が少しだけ見える程度に留めているので、入浴するにも問題はない。
---部屋風呂……---
ふと、六郎の身体が中腰で止まった。
いつもなら露天の水音など聞こえるのが当たり前なので気にもしないのだが、深成のことが頭をよぎったのだ。
---そういや深成ちゃんも、部屋に露天があると言っていた---
だとすると、最上階だ。
足場から見えるのは当然本館と隣接している端の部屋だけなので、そこに泊まっているとも限らないのだが。
気になり、知らず聞き耳を立ててしまった六郎の耳に、衝撃的な声が飛び込んできた。
「あっ……。もぅ真砂、駄目だって」
「ちゃんと押さえておかないと、お前沈みそうだし」
足場の上で、六郎は思わず上げかけていた腰を下ろした。
---んなっ……! 何だとっ? 二人の声がここまで聞こえるということは、ふ、二人で一緒に、ふふ、風呂に入っているのかっ!---
どっきんどっきんと、自分は何をしているわけでもないのに鼓動が速くなる。
そんな六郎の心を冷ますように、ぱしゃんぱしゃんと水音が響く。
「やだっ……。ま、真砂っ……」
ぱしゃ、という音と共に、深成の声が聞こえる。
---い、嫌がっているではないか! やはりあ奴、嫌がる深成ちゃんを無理やりっ……!!---
握った拳を足場に打ち付けそうになり、六郎は慌てて思い止まった。
ここで足場を殴りつければ、物凄い響く。
旅館に迷惑だ。
「……ああっ! 駄目っ!!」
一際大きな水音が上がり、深成が叫んだ。
その直後、「しーっ」という真砂の声も僅かに聞こえたような。
「あんまり声上げるなよ。どこまで聞こえるかわからん」
「だ、だって……」
最早泣き声に近い深成の声に、六郎は、くらっと眩暈がした。
---み、深成ちゃんが、おおおおお犯されている……!---
くらくらと足場に手をついた六郎の視界に、ぽたりと赤い血が落ちた。
鼻が熱い。
---い、いかん。鼻血なんぞを噴いている場合では……。何とかしないと、深成ちゃんがあの外道男に犯されてしまうっ---
ぐい、と鼻を手の甲で拭って顔を上げるものの、どうしたらいいものやら。
最上階は元々三つぐらいしか部屋がない。
部屋の露天風呂に配慮して、各部屋の間を広く取っている。
そのため少々声を出しても隣に聞こえる恐れはないのだ。
ただ今は、六郎のいた場所が悪かった。
普段ではあり得ない場所だからだ。
やきもきしている六郎だが、全神経は耳に集中している。
「も、もぅ真砂っ。もうちょっと優しくしてっ……」
「これ以上柔らかくできん」
---あのドSめっ! 相手はあの深成ちゃんだぞ? くそぅ、やはり私が助けてやらねば!---
意を決し、六郎は足場の先の防音シートを無理やりこじ開けた。
そしてその僅かな隙間に、顔を突っ込む。
シートに身体を預け、足場から思い切り身体を乗り出した。
工事は順調に進んでいるし、旅館ということもあり、夜間は基本的に本館は立ち入り禁止だ。
が、生真面目な六郎は、その日に施工したところをきちんとチェックしないと気が済まない。
よって毎晩いちいち見回りをしているのだ。
---うん、特に問題はないな。これなら工期にも影響はないだろう---
本館の一番上に組まれた足場の端っこで、六郎は満足げに頷いた。
よっこらしょ、と屈んでいた身体を起こそうとしたとき、ぱしゃ、と水音が聞こえた。
---ああ、別館の最上階は、部屋に露天があるんだったな---
本館と別館の端っこは、当然繋がっているので近い。
L字型の外側に露天なので、通常であれば当然見えないのだが、足場は建物の外側に組むものだ。
いつもより出っ張ることになるので、部屋の露天が若干見える。
もちろんそれは問題なので、足場には防音用のシートを張り、露天も端が少しだけ見える程度に留めているので、入浴するにも問題はない。
---部屋風呂……---
ふと、六郎の身体が中腰で止まった。
いつもなら露天の水音など聞こえるのが当たり前なので気にもしないのだが、深成のことが頭をよぎったのだ。
---そういや深成ちゃんも、部屋に露天があると言っていた---
だとすると、最上階だ。
足場から見えるのは当然本館と隣接している端の部屋だけなので、そこに泊まっているとも限らないのだが。
気になり、知らず聞き耳を立ててしまった六郎の耳に、衝撃的な声が飛び込んできた。
「あっ……。もぅ真砂、駄目だって」
「ちゃんと押さえておかないと、お前沈みそうだし」
足場の上で、六郎は思わず上げかけていた腰を下ろした。
---んなっ……! 何だとっ? 二人の声がここまで聞こえるということは、ふ、二人で一緒に、ふふ、風呂に入っているのかっ!---
どっきんどっきんと、自分は何をしているわけでもないのに鼓動が速くなる。
そんな六郎の心を冷ますように、ぱしゃんぱしゃんと水音が響く。
「やだっ……。ま、真砂っ……」
ぱしゃ、という音と共に、深成の声が聞こえる。
---い、嫌がっているではないか! やはりあ奴、嫌がる深成ちゃんを無理やりっ……!!---
握った拳を足場に打ち付けそうになり、六郎は慌てて思い止まった。
ここで足場を殴りつければ、物凄い響く。
旅館に迷惑だ。
「……ああっ! 駄目っ!!」
一際大きな水音が上がり、深成が叫んだ。
その直後、「しーっ」という真砂の声も僅かに聞こえたような。
「あんまり声上げるなよ。どこまで聞こえるかわからん」
「だ、だって……」
最早泣き声に近い深成の声に、六郎は、くらっと眩暈がした。
---み、深成ちゃんが、おおおおお犯されている……!---
くらくらと足場に手をついた六郎の視界に、ぽたりと赤い血が落ちた。
鼻が熱い。
---い、いかん。鼻血なんぞを噴いている場合では……。何とかしないと、深成ちゃんがあの外道男に犯されてしまうっ---
ぐい、と鼻を手の甲で拭って顔を上げるものの、どうしたらいいものやら。
最上階は元々三つぐらいしか部屋がない。
部屋の露天風呂に配慮して、各部屋の間を広く取っている。
そのため少々声を出しても隣に聞こえる恐れはないのだ。
ただ今は、六郎のいた場所が悪かった。
普段ではあり得ない場所だからだ。
やきもきしている六郎だが、全神経は耳に集中している。
「も、もぅ真砂っ。もうちょっと優しくしてっ……」
「これ以上柔らかくできん」
---あのドSめっ! 相手はあの深成ちゃんだぞ? くそぅ、やはり私が助けてやらねば!---
意を決し、六郎は足場の先の防音シートを無理やりこじ開けた。
そしてその僅かな隙間に、顔を突っ込む。
シートに身体を預け、足場から思い切り身体を乗り出した。