【キャスト】
三年生:真砂・六郎 一年生:深成・あき
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 三月一日。
 本日は卒業式だ。
 深成は卒業式が行われている講堂を眺めながら、しょんぼりしていた。

「深成ちゃん。そんな小さくなってると、真砂先輩に見つけて貰えないよ」

 あきが足元にしゃがみ込んでいる深成に言う。
 今日は三年以外は休校だが、周りは結構な人だかりだ。
 部活の先輩や彼氏、好きな人など、それぞれ送る人がいるのだろう。

「ところであきちゃん。あきちゃんは誰を待ってるの?」

 ふと深成は顔を上げた。
 深成はもちろん真砂を待っているのだが、はたしてあきの用事は何なのだろう。
 するとあきは、口に手を当てて目尻を下げた。

「ふふふふ。そりゃあ、真砂先輩の姿を焼き付けておくのよ」

「え、それだけ?」

「そんな子はいっぱいいるわよ」

 さらっと後ろを指す。
 言われてみれば、女子率が高い。

「でもまぁ、真砂先輩には深成ちゃんがいるから、何か行動を起こそうって子は少ないと思うけど。それでなくても怖いし」

「先輩、怖くないよ?」

「それは深成ちゃんにだけよ」

 相変わらずにやにやと笑いながら、あきが言う。

「ま、あたしは猫丸の世話があるから、どっちにしろ用事はあったのよ」

 猫丸とは学校に住み着いている野良猫だ。
 別に誰が飼っているわけでもなく、皆が適当に世話をしている。
 あきもよく、猫缶などを持って行ってやっているのだ。

「先輩が出てきたら、あたしは猫丸のところに行くから、気にしないで帰ってね」

「うん、わかった」

 頷き、深成は視線を講堂に戻した。



 小一時間で講堂から卒業生が出て来た。

「あ、深成ちゃん」

 六郎が深成に気付き、駆け寄ってくる。

「待ってたの?」

「うん。先輩はまだ?」

 一瞬で六郎の期待を打ち砕く。

「彼は中で、女子に囲まれてるよ」

 忌々しそうに言う。
 え、と深成が悲しそうな顔になった。

「皆、あいつのどこがいいんだろう。全く深成ちゃんには勿体ないよ」

「うん……。わらわには勿体ないほどの人だよね……」

 しょぼぼ~~んと項垂れる深成に、六郎は慌てた。

「違うよ! 深成ちゃんみたいないい子には、あんな冷たい奴は勿体ない。相応しくないよ」

 六郎はどうしても、小さい頃から知っているので、深成には無条件に甘い。
 無邪気で無防備な深成は、包んでやるように全面的に守ってやらねば、と思うのだ。

 あの真砂が、深成を優しく包むように守ってやるとは思えない。
 泣かされるのが目に見えるのだ。

「それに、卒業したら別々じゃないか。あいつ、マメに連絡とかくれる?」

「ううん。連絡は、あんまりない」

 そもそも毎日一緒に帰っているのだ。
 そこで十分話はするし、帰ってからもまた話すようなこともない。

 学生など毎日ほぼ皆同じことの繰り返しなのに、そうそう話題もないのだ。
 が、六郎は、そら見たことか! と拳を握りしめた。

「遠距離になったら、そんなんじゃ続かないよ! 奴め、それを狙っているのか?」

 遠距離ではない。
 別に真砂の大学は遠いわけではないのだが。
 六郎は学校から出たら遠距離なのだろうか。

「深成ちゃん。きっと奴は、卒業したらそのままフェイドアウトするつもりだ。そうだ、三月はホワイトデーもあるし、それもしないで消える気だぞ!」

「えっ……いやいや先輩、そんな人じゃないよ」

「深成ちゃんは純粋だから、騙されてるんだよ。連絡くれないのが証拠だよ。好きならきちんと連絡するよ?」

 六郎が言った途端、深成の目に涙が浮かんだ。

「先輩、あんなに優しいのに……。わらわ、先輩に好かれてないの……?」

「だって、好きな子とは離れたくないもんだろ? 連絡しないなんて、あり得ないよ」

「だ、だって。先輩、ちゃんとわらわのこと好きだって……。初めて自分から好きになったのは、わらわだけだって言ってたのに……」

 えぐえぐと泣きじゃくる深成に、六郎はおろおろする。
 でも六郎には、どうしても真砂の気持ちがわからないのだ。
 考え方の大きな違いもあるのだが。

「そこが深成ちゃんの駄目なところだ。あいつがそんなこと、言うわけないだろ? ニュアンスで信じちゃ駄目だよ」

 言うわけないと思われる人が言うことが、どれほど本気を現すのか、直情型の六郎にはわからないらしい。