【キャスト】
三年生:真砂・六郎 一年生:深成・あき
・:・☆・:・★・:・☆・:・★・:・☆・:・★・:・☆
三月一日。
本日は卒業式だ。
深成は卒業式が行われている講堂を眺めながら、しょんぼりしていた。
「深成ちゃん。そんな小さくなってると、真砂先輩に見つけて貰えないよ」
あきが足元にしゃがみ込んでいる深成に言う。
今日は三年以外は休校だが、周りは結構な人だかりだ。
部活の先輩や彼氏、好きな人など、それぞれ送る人がいるのだろう。
「ところであきちゃん。あきちゃんは誰を待ってるの?」
ふと深成は顔を上げた。
深成はもちろん真砂を待っているのだが、はたしてあきの用事は何なのだろう。
するとあきは、口に手を当てて目尻を下げた。
「ふふふふ。そりゃあ、真砂先輩の姿を焼き付けておくのよ」
「え、それだけ?」
「そんな子はいっぱいいるわよ」
さらっと後ろを指す。
言われてみれば、女子率が高い。
「でもまぁ、真砂先輩には深成ちゃんがいるから、何か行動を起こそうって子は少ないと思うけど。それでなくても怖いし」
「先輩、怖くないよ?」
「それは深成ちゃんにだけよ」
相変わらずにやにやと笑いながら、あきが言う。
「ま、あたしは猫丸の世話があるから、どっちにしろ用事はあったのよ」
猫丸とは学校に住み着いている野良猫だ。
別に誰が飼っているわけでもなく、皆が適当に世話をしている。
あきもよく、猫缶などを持って行ってやっているのだ。
「先輩が出てきたら、あたしは猫丸のところに行くから、気にしないで帰ってね」
「うん、わかった」
頷き、深成は視線を講堂に戻した。
小一時間で講堂から卒業生が出て来た。
「あ、深成ちゃん」
六郎が深成に気付き、駆け寄ってくる。
「待ってたの?」
「うん。先輩はまだ?」
一瞬で六郎の期待を打ち砕く。
「彼は中で、女子に囲まれてるよ」
忌々しそうに言う。
え、と深成が悲しそうな顔になった。
「皆、あいつのどこがいいんだろう。全く深成ちゃんには勿体ないよ」
「うん……。わらわには勿体ないほどの人だよね……」
しょぼぼ~~んと項垂れる深成に、六郎は慌てた。
「違うよ! 深成ちゃんみたいないい子には、あんな冷たい奴は勿体ない。相応しくないよ」
六郎はどうしても、小さい頃から知っているので、深成には無条件に甘い。
無邪気で無防備な深成は、包んでやるように全面的に守ってやらねば、と思うのだ。
あの真砂が、深成を優しく包むように守ってやるとは思えない。
泣かされるのが目に見えるのだ。
「それに、卒業したら別々じゃないか。あいつ、マメに連絡とかくれる?」
「ううん。連絡は、あんまりない」
そもそも毎日一緒に帰っているのだ。
そこで十分話はするし、帰ってからもまた話すようなこともない。
学生など毎日ほぼ皆同じことの繰り返しなのに、そうそう話題もないのだ。
が、六郎は、そら見たことか! と拳を握りしめた。
「遠距離になったら、そんなんじゃ続かないよ! 奴め、それを狙っているのか?」
遠距離ではない。
別に真砂の大学は遠いわけではないのだが。
六郎は学校から出たら遠距離なのだろうか。
「深成ちゃん。きっと奴は、卒業したらそのままフェイドアウトするつもりだ。そうだ、三月はホワイトデーもあるし、それもしないで消える気だぞ!」
「えっ……いやいや先輩、そんな人じゃないよ」
「深成ちゃんは純粋だから、騙されてるんだよ。連絡くれないのが証拠だよ。好きならきちんと連絡するよ?」
六郎が言った途端、深成の目に涙が浮かんだ。
「先輩、あんなに優しいのに……。わらわ、先輩に好かれてないの……?」
「だって、好きな子とは離れたくないもんだろ? 連絡しないなんて、あり得ないよ」
「だ、だって。先輩、ちゃんとわらわのこと好きだって……。初めて自分から好きになったのは、わらわだけだって言ってたのに……」
えぐえぐと泣きじゃくる深成に、六郎はおろおろする。
でも六郎には、どうしても真砂の気持ちがわからないのだ。
考え方の大きな違いもあるのだが。
「そこが深成ちゃんの駄目なところだ。あいつがそんなこと、言うわけないだろ? ニュアンスで信じちゃ駄目だよ」
言うわけないと思われる人が言うことが、どれほど本気を現すのか、直情型の六郎にはわからないらしい。
三年生:真砂・六郎 一年生:深成・あき
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三月一日。
本日は卒業式だ。
深成は卒業式が行われている講堂を眺めながら、しょんぼりしていた。
「深成ちゃん。そんな小さくなってると、真砂先輩に見つけて貰えないよ」
あきが足元にしゃがみ込んでいる深成に言う。
今日は三年以外は休校だが、周りは結構な人だかりだ。
部活の先輩や彼氏、好きな人など、それぞれ送る人がいるのだろう。
「ところであきちゃん。あきちゃんは誰を待ってるの?」
ふと深成は顔を上げた。
深成はもちろん真砂を待っているのだが、はたしてあきの用事は何なのだろう。
するとあきは、口に手を当てて目尻を下げた。
「ふふふふ。そりゃあ、真砂先輩の姿を焼き付けておくのよ」
「え、それだけ?」
「そんな子はいっぱいいるわよ」
さらっと後ろを指す。
言われてみれば、女子率が高い。
「でもまぁ、真砂先輩には深成ちゃんがいるから、何か行動を起こそうって子は少ないと思うけど。それでなくても怖いし」
「先輩、怖くないよ?」
「それは深成ちゃんにだけよ」
相変わらずにやにやと笑いながら、あきが言う。
「ま、あたしは猫丸の世話があるから、どっちにしろ用事はあったのよ」
猫丸とは学校に住み着いている野良猫だ。
別に誰が飼っているわけでもなく、皆が適当に世話をしている。
あきもよく、猫缶などを持って行ってやっているのだ。
「先輩が出てきたら、あたしは猫丸のところに行くから、気にしないで帰ってね」
「うん、わかった」
頷き、深成は視線を講堂に戻した。
小一時間で講堂から卒業生が出て来た。
「あ、深成ちゃん」
六郎が深成に気付き、駆け寄ってくる。
「待ってたの?」
「うん。先輩はまだ?」
一瞬で六郎の期待を打ち砕く。
「彼は中で、女子に囲まれてるよ」
忌々しそうに言う。
え、と深成が悲しそうな顔になった。
「皆、あいつのどこがいいんだろう。全く深成ちゃんには勿体ないよ」
「うん……。わらわには勿体ないほどの人だよね……」
しょぼぼ~~んと項垂れる深成に、六郎は慌てた。
「違うよ! 深成ちゃんみたいないい子には、あんな冷たい奴は勿体ない。相応しくないよ」
六郎はどうしても、小さい頃から知っているので、深成には無条件に甘い。
無邪気で無防備な深成は、包んでやるように全面的に守ってやらねば、と思うのだ。
あの真砂が、深成を優しく包むように守ってやるとは思えない。
泣かされるのが目に見えるのだ。
「それに、卒業したら別々じゃないか。あいつ、マメに連絡とかくれる?」
「ううん。連絡は、あんまりない」
そもそも毎日一緒に帰っているのだ。
そこで十分話はするし、帰ってからもまた話すようなこともない。
学生など毎日ほぼ皆同じことの繰り返しなのに、そうそう話題もないのだ。
が、六郎は、そら見たことか! と拳を握りしめた。
「遠距離になったら、そんなんじゃ続かないよ! 奴め、それを狙っているのか?」
遠距離ではない。
別に真砂の大学は遠いわけではないのだが。
六郎は学校から出たら遠距離なのだろうか。
「深成ちゃん。きっと奴は、卒業したらそのままフェイドアウトするつもりだ。そうだ、三月はホワイトデーもあるし、それもしないで消える気だぞ!」
「えっ……いやいや先輩、そんな人じゃないよ」
「深成ちゃんは純粋だから、騙されてるんだよ。連絡くれないのが証拠だよ。好きならきちんと連絡するよ?」
六郎が言った途端、深成の目に涙が浮かんだ。
「先輩、あんなに優しいのに……。わらわ、先輩に好かれてないの……?」
「だって、好きな子とは離れたくないもんだろ? 連絡しないなんて、あり得ないよ」
「だ、だって。先輩、ちゃんとわらわのこと好きだって……。初めて自分から好きになったのは、わらわだけだって言ってたのに……」
えぐえぐと泣きじゃくる深成に、六郎はおろおろする。
でも六郎には、どうしても真砂の気持ちがわからないのだ。
考え方の大きな違いもあるのだが。
「そこが深成ちゃんの駄目なところだ。あいつがそんなこと、言うわけないだろ? ニュアンスで信じちゃ駄目だよ」
言うわけないと思われる人が言うことが、どれほど本気を現すのか、直情型の六郎にはわからないらしい。