七時前に、真砂は急いで会社を出た。
 その足で土曜日に行ったブランドショップに向かう。
 閉店ぎりぎりでショップに入ると、普通は良い顔をしないであろう店員全員が、真砂を見るなり笑顔で駆け寄る。

「いらっしゃいませ!」

 本日最後の客が男前だと、店員も気持ちよく仕事を終えられるというもの。
 わらわらと集まってくる店員の一人に、真砂は指輪の注文書を差し出した。

「あ、お引き取りですね。少々お待ちください」

 店員が奥に走り、すぐにトレイに載せた指輪を持ってきた。

「今日は彼女さんは?」

 ここで試着してみれば、ぴったりでなかった場合はまたすぐにお直しに出せるのだが。

「今日はいない。ちゃんと測って貰ったし、大丈夫だろ」

 指輪に施された彫刻をまじまじと確かめ、真砂が返した指輪を、店員がもう一度磨いて箱にしまう。
 あ、と真砂が、それを制した。

「そのままでいい」

「え?」

「すぐに出せたほうが都合がいい」

 ああ、と店員は指輪を裸のまま受け取る真砂に納得し、箱を閉めてそのまま差し出した。

「でしたら、手提げの袋もないほうがいいですね」

「そうだな」

 箱は鞄にしまい、指輪はポケットに入れる。
 そして急いで店を出て行く真砂を、またも店員全員が、心底羨ましそうに見送るのであった。



 家に入ると、良い匂いが漂っている。
 玄関のドアの音を聞きつけ、奥から深成が子犬のように駆け出してきた。

「おかえりなさ~い」

 鞄を受け取り、コートを脱ぎながら廊下を歩く真砂の後ろを、深成がついてくる。

「良い匂いだな」

「今日はビーフシチュー。お肉とろとろに煮込んだんだよ」

 鞄を置き、コートをハンガーに掛けながら、深成がにこにこと言う。

「真砂がね、いいもの買ってくれたから、頑張ってご馳走作ったの」

 嬉しそうにテーブルにランチョンマットを敷いて用意する深成に、ふ、と息をつくと、真砂は不意に、深成を後ろから抱き締めた。
 そのまま、深成の右手を取り、ポケットから出した指輪を小指に通す。

「あ……。わぁ、綺麗」

 グリーンゴールドの指輪の嵌った右手を少し掲げて、深成が言う。
 ウミガメ二頭の間は、プルメリアが繋いでいる。

「可愛いね。ありがとう、真砂」

 左手で大事そうに右手を包み、深成が嬉しそうに言う。

「次はこの指にプラチナだな」

 そう言うと、真砂は深成の左手薬指にキスをし、次いで唇にもキスを落とすのだった。

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 WD課長バージョン。さすがに課長ともなるといいもの買ってくれます。
 まぁ深成だからでしょうけど。

 バレないようにピンキーリングにした深成ですが、いくら『いかにも!』な指じゃなくても、いきなり指輪してたらあきちゃんのアンテナは反応するでしょう。
 そしてその理由も敏感に読み取るに違いない。

 ところで結局あきちゃんは捨吉に何貰ったんですかね( ̄▽ ̄)
 捨吉のリサーチも、聞く相手が悪かったのか、大して役に立たなかったような気がしますし。

 ちなみにハワイアンジュエリーのウミガメは、サメに襲われないっていうお守りでもあるらしいですよ。
 ハワイっぽいというか何というか( ̄▽ ̄)

2016/03/22 藤堂 左近