【キャスト】
mira商社 課長:真砂 派遣社員:深成
社員:捨吉・あき・千代・ゆい・羽月
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「捨吉。何やってるんだ。行くぞ」

 朝から外出予定の真砂が、鞄を持って捨吉に言う。
 その捨吉は、やたらと大きな紙袋を用意していた。

「ちょ、ちょっと待ってくださいよ。深成、これが入りそうな袋ない?」

 わたわたと折りたたんだ紙袋を翳す捨吉に、深成ががさがさとキャビネを探り、少し大きめの袋を引っ張り出した。

「これしかないよ」

「あ、それでいい」

 深成から袋を受け取り、捨吉は折りたたんだ紙袋を放り込むと、慌てて真砂を追ってフロアを出て行った。



「何だ、その荷物は」

 得意先に足を運びながら、真砂が怪訝な顔を捨吉に向ける。
 普通の鞄に、深成から貰った袋とその中の紙袋。
 しかも鞄以外は二つとも空っぽだ。

「帰りに備えて、ですよ」

 捨吉の答えに、真砂は一層怪訝な顔をする。

「課長。今日が何の日か、わかってます?」

「……何か特別な日なのか?」

 今日は二月十二日。
 はて、何かあったっけか、と考えてみても、真砂の記憶には何もない。

「もぅ課長。毎年のことなんだから、いい加減覚えてくださいよ」

 少し捨吉が口を尖らす。

「バレンタインですよ。毎年この時期の外回りは、帰りの荷物が凄くなるでしょ」

「ああ……」

 今年のバレンタインは日曜日だ。
 つまり、今日が直近の金曜日。
 見目良い真砂はこの時期になると外回りの先々でチョコを貰う羽目になる。

「今日がピークでしょうね~」

「毎年毎年、よく皆飽きないもんだな」

 興味なさげに言う真砂を、捨吉はちらりと見た。
 二月に入ってから、すでにちょろちょろ客先でチョコは貰っている。
 だがそれらは全て、課内への土産になった。

 しかも真砂自身は一つも食べない。
 今までずっと、そこは変わらないスタンスだ。

「課長は、甘い物嫌いなんですか?」

「別に嫌いじゃない。好きでもないが」

「じゃ、何でいっつも一つも食べないんです?」

 中には一目で本気チョコとわかるほどの高いものもあるのだ。
 チョコの意味はともかく、一つぐらい摘んでも良さそうなものだと思うのだが。
 だが真砂は、思い切り顔をしかめた。

「どこの誰だかわからん奴に貰った物なんか食えるか」

 どこの誰だかぐらいはわかるのでは、とちらりと思った捨吉だが、まぁ確かに直接知っているわけではない人からがほとんどだ。
 大抵が、受付やそのフロアの女性たち。
 そんな人、真砂はさっぱり覚えてないのだろう。

 ちなみに部下である千代やあきは、いい加減真砂がそういうものを受け取らないのがわかっているため、一課ではそういったイベント自体がなくなっている。
 女子陣は楽ちんだろう。

---うちの課は、バレンタインとか関係ないからなぁ……---

 あきのことをちらりと思い、捨吉は密かにため息をついた。