【キャスト】
転校生:六郎 三年生:真砂 一年生:深成・あき
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 とある放課後。
 深成は鞄を持って、正門の横の花壇に座っていた。

---今日は図書館に寄ろうかな。そしたら先輩と、ちょっと長くいられるし---

 真砂を待ちながら、図書館で借りた『主婦ミラ子シリーズ』を読み返す。
 真砂と付き合いだして二か月弱。
 初デートの後は前にも増して順調だ。

 電話はあまりないが、帰りにちょいちょい寄り道したり、小さなデートを重ねている。
 休日を一日潰してのデートは真砂が受験生ということもあって、初デートを含めまだ二回しかしていないが、深成は帰り道での小さなデートでも満足だ。

 今日も図書館デートを計画し、まだかな、と顔を上げた深成は、校舎から出てきた人物に目を見開いた。

「六郎兄ちゃん?」

 出てきたのは深成の幼馴染だ。
 六郎のほうが年上だが、家が隣同士だったことで小さい頃からよく遊んで貰っていた。
 だが大分前に引っ越してしまっていたのだ。

「深成ちゃん!」

 六郎も嬉しそうに駆け寄ってくる。

「どうしたの? 何でうちの学校に?」

「転校してきたんだ。今日から一緒の学校だよ」

「えっほんとに?」

 きゃきゃきゃ、と嬉しそうに笑って、深成が六郎を見上げる。
 そんな深成を、六郎は眩しそうに見た。

「深成ちゃん、変わらないねぇ」

「そんなことないよっ。わらわも十五歳なんだから」

「そっかぁ。大きくなったね」

「六郎兄ちゃんは三年だよね? だったらそうそう会えないかもね」

 そんな話をしていると、真砂が歩いてきた。
 今日来たばかりの転入生と親しげに話している深成を見、眉を顰める。

「あっ! せんぱぁ~い」

 真砂の不機嫌さには全く気付かず、深成がぶんぶんと手を振る。

「あれっ」

 六郎も振り向き、真砂を見た。

「確か同じクラスだよね」

 深成と会えて機嫌のいい六郎が、笑顔で真砂に話しかける。
 が、真砂は仏頂面のまま、ああ、と短く応えて、顎で深成を促した。
 そのまま、とっとと歩いていく。

「あっ。じゃあね、六郎兄ちゃん。またね!」

 慌てて深成が真砂を追う。
 唖然と六郎が見送る前で、深成は真砂に追いつくと、何か彼に話しかけた。
 一言二言言葉を交わし、真砂が深成の手を取る。

---えっ……---

 そのまま手を繋いで駅のほうへ歩いていく二人を、六郎は驚いた顔で見つめた。

---み、深成ちゃんと手を繋いだ。何だ、あの男は---

 今日転入したクラスにいた男だ。
 周りの者と明らかに纏う空気が違ったので目立った。

 恐ろしく整った外見だが、恐ろしく他人を寄せ付けない。
 今日一日しか見ていないが、一度も笑顔を見なかった。

 そんな男と深成の接点など想像もつかない。

---いや待て。深成ちゃんはまだ一年生だ。あの幼さだし、最上級生のあいつが送ることになっているのかも。そうだ、きっとそうに違いない---

 小学六年生が一年生を送り迎えするようなものなのだろう、と気付き(高校生だっつーの)、六郎はとりあえず気持ちを落ち着けて、自分も校門をくぐった。



「あいつは何だ?」

 図書館に向かう道すがら、真砂が深成に聞いた。
 六郎のようにぐるぐる自分で考えない直球だ。
 しかも不機嫌さも全開である。

「あいつ? ああ、六郎兄ちゃん? 転校してきたんだってね。あ! そういえば、先輩とおんなじクラスだって、さっき言ってた?」

「ああ。知り合いか?」

「うん。幼馴染なの。昔はお家が近くてね、よく一緒に遊んでたんだぁ」

 にこにこと言う。
 若干機嫌の直った真砂が、ふぅん、と呟いた。

「久しぶりだったなぁ。六郎兄ちゃん、結構大人しいから、先輩、仲良くしてあげてね」

「それはあいつ次第だな」

 単なる幼馴染だろうが、深成にべたべたするようであれば、真砂にとっては敵である。
 だが深成は意味がわからず、きょとんとした。

「次の休み、どっか行くか?」

「うん!」

 先の疑問など真砂の誘いで一瞬のうちに掻き消え、深成は嬉しそうに大きく頷いた。