「ねぇ課長。ちょっとさ、わらわを気にせず、思いっきり滑ってみて」

 そろそろこのリフトを最後に、滑り終えようという頃、深成が真砂に言った。

「そんなこと出来るか」

 即答で、真砂がばっさりと斬る。
 真砂には深成を放って滑るなどということは、てんで頭にないようだ。
 ちょっと嬉しくなったが、そうじゃなくて、と、深成は今途中まで滑ってきているコースの横を指した。

「あっち、コブコースでしょ。課長なら、ああいうところも滑れるでしょ?」

「でもお前は無理だろ」

「だから、課長だけで滑ってみて」

「何でだよ」

 ちょっと不満そうに言う。
 まるで真砂のほうが、深成と離れたくないようだ。

「課長が思いっきり滑ったら、どれぐらい速いのかなって思ったんだもん」

「……お前がここから降り切る前に、下に着くぜ」

「そうだろうけどっ」

 深成は通常コース、真砂はコブコースであっても、真砂のほうが速いだろう。
 それは想定内だ。
 真砂はちらりとコブコースを見、次いでコースの下を指差した。

「そしたら、あの辺りで待っててやる。一人で降りて来られるんだな?」

「ん……。頑張る」

 降りてしまえば、またすぐに一緒になる。

「スピードが出過ぎたら、あっちの雪の山に突っ込めばいい」

 コースの脇には、誰も入り込まないため、新雪が積もっているところがある。
 突っ込んでしまえば出るのは大変だろうが、怪我なく止まれるだろう。

「じゃ、先に行ってるぞ」

 そう言うと、真砂はつい、と板を傾けて、コブのほうへ滑って行った。
 そのまま止まることなく、一気に滑り降りる。

「……すごーい……」

 転ばないように、その場にぺたんと座り、深成は真砂を見つめた。
 コブを避けるようなことはせず、上手くコブに乗って滑っていく。

---格好良いなぁ……---

 深成が見惚れている先で、真砂は最後のコブでジャンプすると、ざっと板を返して止まった。
 そして顔を上げ、手を振る。
 来い、ということだろう。

 深成は、よいしょ、と立ち上がり、慎重に板を下に向けた。
 凄いスピードが出る前に、ターンをして勢いを殺す。
 それを何度か繰り返し、真砂の近くまで降りた。

「か、課長……」

 ほ、と気を抜いた瞬間、まだ微妙に坂になっていたため、板が滑る。

「あっ……あにゃーーっ!」

「おいっ!」

 ひゅっと真砂の前を通り過ぎそうになったが、真砂が手を伸ばして、深成の手を掴んだ。
 が、その拍子に真砂の板も滑り、二人してコース脇の新雪に突っ込んだ。

「ひゃ~~、ふわっふわだね~」

「おいこら、暴れるな。板が埋まると重くなって大変なんだぞ」

 とりあえず先に脱出した真砂が、片足を外して深成を抱き起した。

「これまでだな。あとは皆が降りてくるのを待って、宿に帰るか」

「ん、楽しかったね」

 にこにこと言う深成についた雪を、真砂はぽんぽんと叩いた。

「ねぇ課長。課長、やっぱり凄い上手だね」

「そうか?」

「うん。すっごい格好良かったぁ。わらわ、課長の格好良いとこ見たかったんだ」

 にこにこと、満面の笑みで言う。
 ちょっと真砂が、照れたように視線を逸らせた。