何だかんだで十二時前に、出してくれた年越し蕎麦を食べ、すぐにそれぞれ部屋に戻った。
部屋に入るなり、深成は、たたた、と窓際に行く。
「う~ん、見えることは見えるけど……。ちょっと見にくいなぁ。あきちゃんたちのお部屋のほうが見やすそう」
行こうよ、と言う深成の腕を、真砂が掴んで引き留める。
「ちょっとは気ぃ遣えよ」
「え、何? あきちゃんたちも花火見てるでしょ?」
きょとんとする深成に、真砂は座っていたベッドの枕元を顎で指した。
そこには例のアレがある。
「お前は寝てたから知らんだろうけどなぁ。今回は全員の部屋に、それが用意されてるようだ。うっかり使ってるかもだろ」
「えっ……ぇぇええ?」
真っ赤になって、深成が意味なくドアを見、次いで己らのベッドにあるアレを見る。
微妙に深成が挙動不審になっている間に、真砂は立ち上がって窓辺に寄った。
「……ふ~ん。確かにあんまり見えないな」
呟き、外を見る。
「外に出れば見えるのかな。けど寒いしなぁ」
ちらりと深成を見る。
深成が見たいのなら、付き合ってやるつもりなのかもしれない。
「え、じゃあお外に行こう?」
案の定、深成が真砂の横に駆け寄ってきて言う。
「浴衣だからなぁ。着替えないといかん」
面倒だ、と少し渋る。
「ぱぱっと着替えて、コート着ておけば大丈夫だよ。そんな長々いないんだし」
言いつつ、早くも深成は帯を解く。
向こうを向いて、さっさと着替えてコートを羽織った。
真砂もしぶしぶながら、着替えてコートを羽織る。
「さ、早く行って、早く寝ちゃおう」
帽子を被り、深成は真砂の手を引いて部屋を出た。
ロビーで、同じように外に行こうとしている千代と清五郎に出会った。
「おや。真砂らも外に見に行くのか」
「ああ。向こうのほうに行けば見えそうだしな」
「わ~い、千代。一緒に見よう~」
無邪気に深成が千代に引っ付くが、やはり真砂がそんな深成を、ぐい、と引っ張った。
「だから。お前は、ちょっとは気を遣えって」
「え、あ、そっか。ごめんね、お邪魔だね」
何気にこの二人はあからさまだ。
清五郎が苦笑いした。
「まぁ……。お前らにしたって、二人のほうがいいだろ」
「そりゃあな」
にやりと笑い、真砂は深成を連れて歩いて行った。
「うわ~、綺麗だね~」
宿からちょっと離れたところで、深成は空を見上げてはしゃいでいた。
「あんまり上ばっかり見るな。こけるぞ」
雪が積もっているので、座るところがないのだ。
ちょっと坂道だし、立ったまま空を見ている深成は、よろよろしていて今にも転びそうだ。
「ん……、そうだ。雪なんだから、寝転んじゃえばいいじゃん」
言うなり深成は、仰向けに倒れ込んだ。
「こらっ! こんな夜に雪に埋まるな。風邪引くぞ」
「楽ちんだよ~」
寝転んだまま、深成は真砂の手を引っ張った。
真砂がバランスを崩して横に倒れ込む。
「ったく、お前は~」
言いつつ、雪なのをいいことに、ごろごろとその辺りを転がる深成と戯れる。
楽しそうにはしゃぐ深成を、ようやく真砂は雪の中で抑え込んだ。
ん~、と目を瞑っていた深成が気付くと、真砂の顔が至近距離にある。
わ、と驚く間もなく、そのままキス。
寝転んでいるとはいえ、今はベッドではない。
ちょっと安心しつつ大人しく真砂のキスを受け入れていた深成だが、真砂は唇を離すと、そのまま首筋に顔を埋めた。
ぴく、と深成の身体が強張る。
「か、課長……」
少し身を捩ると、真砂が深成の首筋にキスをし、そのままゆっくりと舌を這わせた。
「ひゃっ……!」
ぞくぞくっと深成の身体を電流が流れる。
雪に埋もれているというのに、身体が熱い。
何とも言えない感覚に、わけもわからず涙腺が緩む。
「……泣くな」
気付けば真砂が覗き込んでいる。
そして、再び軽くキスをすると、身体を起こして深成を引っ張った。
どきどきと暴れる鼓動と、小さく震える身体を起こすと、深成は真砂に抱き付いた。
「いつまでもこんなことしてると、いい加減風邪引くな」
深成を抱いたまま、真砂がぼそ、と言う。
背に回した手で深成を支えながら、真砂は立ち上がって周りを見た。
少し先に、宿の灯りが見えている。
花火も終わったので、そろそろ清五郎らも戻ってくるだろう。
「……変に冷えちゃったね。お風呂……もうやってないだろうな」
宿のお風呂は十二時までだ。
すでに一時を回っている。
すっかり冷え切ってしまったわけではないが、雪の中で戯れたので、繋いだ手は二人とも冷たい。
「寒かったら、俺が温めてやる」
前を向いたまま、真砂が言う。
収まった深成の鼓動が、一気に跳ね上がった。
先の行動から想像するに、今の言葉の意味は一つにしか取れない。
「かっ課長っ。ここ、ここでやるのはよろしくないって、自分で言ったじゃんっ」
慌てて言うと、ちらりと真砂は振り返った。
「そうは思うが……。でも俺も、いい加減限界だぜ」
「!!!」
真顔で言われ、深成は固まった。
いつものような、さらりと流せるような言い方ではない。
本気だ、とわかり、深成はパニックになった。
---どっどうしよう!! このままお部屋に帰って、わらわ、大丈夫? い、いや、課長が嫌なんじゃないけど! で、でもっ心の準備というものがっ……---
ぐるぐる考える。
が、真砂に手を引かれているので、足は止まらない。
そう遠くまで出たわけでもないので、すぐに宿についてしまう。
---どどど、どーーしよーーー!! あきちゃんに助けを求める? いや駄目だ! あきちゃんだって、お外に出てないんだから、今何やってるかわかんない! ち、千代っ! 千代ならお外に行ってたから、まだ帰ったところぐらいだよねっ?---
真砂に引っ張られたまま、よろよろとロビーに入ると、階段のところに千代と清五郎を見つけた。
「あっ!! 千代ぉっ!!」
深成は思わず大声で千代を呼んだ。
少し驚いた顔で、千代が振り向く。
「あれ深成。真砂課長も、今帰って来たんですか?」
にこ、と笑って足を止める。
たたた、と深成は階段を駆け上がって、千代に駆け寄った。
「あ、あのね……」
勢い込んで口を開き、は、と清五郎に目が行く。
「……どうしたんだい?」
千代が、怪訝な顔で深成を見た。
「う、ううん。花火、綺麗だったね」
何となく、この二人の間にも割り込めない感じだ。
それに、いきなり千代と一緒の部屋がいい、というのも変な話だ。
明らかに真砂が何かしたと言っているようなものではないか。
……実際その通りなのだが。
部屋に入るなり、深成は、たたた、と窓際に行く。
「う~ん、見えることは見えるけど……。ちょっと見にくいなぁ。あきちゃんたちのお部屋のほうが見やすそう」
行こうよ、と言う深成の腕を、真砂が掴んで引き留める。
「ちょっとは気ぃ遣えよ」
「え、何? あきちゃんたちも花火見てるでしょ?」
きょとんとする深成に、真砂は座っていたベッドの枕元を顎で指した。
そこには例のアレがある。
「お前は寝てたから知らんだろうけどなぁ。今回は全員の部屋に、それが用意されてるようだ。うっかり使ってるかもだろ」
「えっ……ぇぇええ?」
真っ赤になって、深成が意味なくドアを見、次いで己らのベッドにあるアレを見る。
微妙に深成が挙動不審になっている間に、真砂は立ち上がって窓辺に寄った。
「……ふ~ん。確かにあんまり見えないな」
呟き、外を見る。
「外に出れば見えるのかな。けど寒いしなぁ」
ちらりと深成を見る。
深成が見たいのなら、付き合ってやるつもりなのかもしれない。
「え、じゃあお外に行こう?」
案の定、深成が真砂の横に駆け寄ってきて言う。
「浴衣だからなぁ。着替えないといかん」
面倒だ、と少し渋る。
「ぱぱっと着替えて、コート着ておけば大丈夫だよ。そんな長々いないんだし」
言いつつ、早くも深成は帯を解く。
向こうを向いて、さっさと着替えてコートを羽織った。
真砂もしぶしぶながら、着替えてコートを羽織る。
「さ、早く行って、早く寝ちゃおう」
帽子を被り、深成は真砂の手を引いて部屋を出た。
ロビーで、同じように外に行こうとしている千代と清五郎に出会った。
「おや。真砂らも外に見に行くのか」
「ああ。向こうのほうに行けば見えそうだしな」
「わ~い、千代。一緒に見よう~」
無邪気に深成が千代に引っ付くが、やはり真砂がそんな深成を、ぐい、と引っ張った。
「だから。お前は、ちょっとは気を遣えって」
「え、あ、そっか。ごめんね、お邪魔だね」
何気にこの二人はあからさまだ。
清五郎が苦笑いした。
「まぁ……。お前らにしたって、二人のほうがいいだろ」
「そりゃあな」
にやりと笑い、真砂は深成を連れて歩いて行った。
「うわ~、綺麗だね~」
宿からちょっと離れたところで、深成は空を見上げてはしゃいでいた。
「あんまり上ばっかり見るな。こけるぞ」
雪が積もっているので、座るところがないのだ。
ちょっと坂道だし、立ったまま空を見ている深成は、よろよろしていて今にも転びそうだ。
「ん……、そうだ。雪なんだから、寝転んじゃえばいいじゃん」
言うなり深成は、仰向けに倒れ込んだ。
「こらっ! こんな夜に雪に埋まるな。風邪引くぞ」
「楽ちんだよ~」
寝転んだまま、深成は真砂の手を引っ張った。
真砂がバランスを崩して横に倒れ込む。
「ったく、お前は~」
言いつつ、雪なのをいいことに、ごろごろとその辺りを転がる深成と戯れる。
楽しそうにはしゃぐ深成を、ようやく真砂は雪の中で抑え込んだ。
ん~、と目を瞑っていた深成が気付くと、真砂の顔が至近距離にある。
わ、と驚く間もなく、そのままキス。
寝転んでいるとはいえ、今はベッドではない。
ちょっと安心しつつ大人しく真砂のキスを受け入れていた深成だが、真砂は唇を離すと、そのまま首筋に顔を埋めた。
ぴく、と深成の身体が強張る。
「か、課長……」
少し身を捩ると、真砂が深成の首筋にキスをし、そのままゆっくりと舌を這わせた。
「ひゃっ……!」
ぞくぞくっと深成の身体を電流が流れる。
雪に埋もれているというのに、身体が熱い。
何とも言えない感覚に、わけもわからず涙腺が緩む。
「……泣くな」
気付けば真砂が覗き込んでいる。
そして、再び軽くキスをすると、身体を起こして深成を引っ張った。
どきどきと暴れる鼓動と、小さく震える身体を起こすと、深成は真砂に抱き付いた。
「いつまでもこんなことしてると、いい加減風邪引くな」
深成を抱いたまま、真砂がぼそ、と言う。
背に回した手で深成を支えながら、真砂は立ち上がって周りを見た。
少し先に、宿の灯りが見えている。
花火も終わったので、そろそろ清五郎らも戻ってくるだろう。
「……変に冷えちゃったね。お風呂……もうやってないだろうな」
宿のお風呂は十二時までだ。
すでに一時を回っている。
すっかり冷え切ってしまったわけではないが、雪の中で戯れたので、繋いだ手は二人とも冷たい。
「寒かったら、俺が温めてやる」
前を向いたまま、真砂が言う。
収まった深成の鼓動が、一気に跳ね上がった。
先の行動から想像するに、今の言葉の意味は一つにしか取れない。
「かっ課長っ。ここ、ここでやるのはよろしくないって、自分で言ったじゃんっ」
慌てて言うと、ちらりと真砂は振り返った。
「そうは思うが……。でも俺も、いい加減限界だぜ」
「!!!」
真顔で言われ、深成は固まった。
いつものような、さらりと流せるような言い方ではない。
本気だ、とわかり、深成はパニックになった。
---どっどうしよう!! このままお部屋に帰って、わらわ、大丈夫? い、いや、課長が嫌なんじゃないけど! で、でもっ心の準備というものがっ……---
ぐるぐる考える。
が、真砂に手を引かれているので、足は止まらない。
そう遠くまで出たわけでもないので、すぐに宿についてしまう。
---どどど、どーーしよーーー!! あきちゃんに助けを求める? いや駄目だ! あきちゃんだって、お外に出てないんだから、今何やってるかわかんない! ち、千代っ! 千代ならお外に行ってたから、まだ帰ったところぐらいだよねっ?---
真砂に引っ張られたまま、よろよろとロビーに入ると、階段のところに千代と清五郎を見つけた。
「あっ!! 千代ぉっ!!」
深成は思わず大声で千代を呼んだ。
少し驚いた顔で、千代が振り向く。
「あれ深成。真砂課長も、今帰って来たんですか?」
にこ、と笑って足を止める。
たたた、と深成は階段を駆け上がって、千代に駆け寄った。
「あ、あのね……」
勢い込んで口を開き、は、と清五郎に目が行く。
「……どうしたんだい?」
千代が、怪訝な顔で深成を見た。
「う、ううん。花火、綺麗だったね」
何となく、この二人の間にも割り込めない感じだ。
それに、いきなり千代と一緒の部屋がいい、というのも変な話だ。
明らかに真砂が何かしたと言っているようなものではないか。
……実際その通りなのだが。