「ありがと! 深成ちゃん」
深成にしては、なかなかやりおる、と感心し、あきはぺこりとお礼を言った。
---となると、千代姐さんの言う通り、捨吉くんの反応が見ものかもね---
はたして本当にあきたちの部屋にもアレがあるのかはわからないが、あの押しの弱い捨吉は、いきなりそういうモノを示されるとどういう反応をするだろう。
---ちょっとは意識してくれるかな?---
あきだって、いい加減はっきりして欲しい。
この旅行などチャンスではないか。
---とはいえ、いきなり襲われても困るけど---
まぁでもそうなっても、捨吉ならいいかなぁ、などと考えつつ一人で赤くなっていると、真砂が深成の肩を抱いたまま腰を浮かせた。
「おい。目が覚めたのなら丁度いい。今のうちに、部屋に行くぞ」
さすがに抱っこしては連れて行ってやらないようだ。
他の者の目があるからかもしれないが。
が、深成はふるふると首を振った。
「やだよ~。今日はお蕎麦もあるし、花火もあるもん」
「花火?」
清五郎の横に座った千代が、ああ、と口を挟む。
「大晦日ですから、花火が上がるんです。上がる場所は結構遠いんですけど、山ですから、見えるんですよ」
「へぇ、そうか。そりゃいいな。部屋から見えるのか?」
「そうですわねぇ。ま、見えなかったら、ちょっと出ましょうか」
千代と清五郎は、良い感じで話している。
その前では半目の深成が真砂に寄りかかりながら、お蕎麦、と呟いている。
「今でそんな眠そうなのに、十二時まで起きてられるのかよ」
「今ちょっと寝て、十二時に起きるの」
「お前、一旦寝たら起きないだろうがっ」
ぎゃーすかと言いながらも、真砂はしぶしぶ腰を下ろす。
「寝てたら叩き起こすからな!」
「怖いよぅ~」
くしゃ、と顔を歪めながらも、深成は真砂から離れない。
にまにまと、あきはそんな二人を見た。
と、階段を降りてくる捨吉が目に入った。
「あ、そうだ。捨吉くん、使っちゃってごめんね」
当初の用事を思い出し、あきは捨吉に声をかけた。
あきの落としたものを探しに行っていたことになっているので、その体(てい)で会話する。
捨吉は、ちら、とあきを見、あ、うん、と呟いた。
何となく挙動不審だ。
---やっぱりあったのかしら? でもあたしの用事とは関係ないと思うはずよ---
すっかり安心していたあきだったが、捨吉は、あきの横に来ると、小声でぼそ、と囁いた。
「あのさ。あきちゃん、何落としたの……?」
「えっ」
そこまでは考えてなかったなぁ~と、一瞬呑気に思ったあきだったが、捨吉の表情に、はっとする。
この微妙な表情。
もしかして、あきがアレを落とした、と思っているのではないか?
「あっ! あの、えっと……。そう! あの、家の鍵! あの、いっつもほら、このポーチに入れてるんだけど、なかったからっ」
必死でいつも持っているものを考え、且つ何故今ないことに気付いたのかも補足する。
「お風呂に行く前に、このポーチ開けたからさ。そのとき落ちたのかと思って」
お風呂セットと一緒に持っていた小さなポーチを翳して言う。
捨吉が、やっと安心したように笑った。
「そ、そっか。うん、そうだよね」
あからさまに、ほっとしたような感じだ。
どっとあきの背を、妙な汗が流れた。
---ああああ……。やっぱりあたしが落としたのがアレだと思ったんだ。てことは、今日もアレ、あったってことよね。もぅあの人、何考えてんのよ---
あんなモノを己が落としたと思われていたことに、顔から火が出る思いだ。
---ま、まぁ上手く誤魔化せたことだし、あとは捨吉くんの反応を観察しておこう---
自分まで挙動不審になるのは怪しい。
あきはあんなモノ見てもいないはずなのだから。
心を落ち着け、密かに深呼吸していると、捨吉がようやくあきを見た。
「あ、で、か、鍵、なかったんだけど」
「え? あ、そ、そう? じゃあ鞄の中に落ちたのかしらね」
当たり前なのだ。
鍵はちゃんと鞄の中にある。
さして慌てることでもないが、自分で言った手前、あきは少し困った顔をした。
深成にしては、なかなかやりおる、と感心し、あきはぺこりとお礼を言った。
---となると、千代姐さんの言う通り、捨吉くんの反応が見ものかもね---
はたして本当にあきたちの部屋にもアレがあるのかはわからないが、あの押しの弱い捨吉は、いきなりそういうモノを示されるとどういう反応をするだろう。
---ちょっとは意識してくれるかな?---
あきだって、いい加減はっきりして欲しい。
この旅行などチャンスではないか。
---とはいえ、いきなり襲われても困るけど---
まぁでもそうなっても、捨吉ならいいかなぁ、などと考えつつ一人で赤くなっていると、真砂が深成の肩を抱いたまま腰を浮かせた。
「おい。目が覚めたのなら丁度いい。今のうちに、部屋に行くぞ」
さすがに抱っこしては連れて行ってやらないようだ。
他の者の目があるからかもしれないが。
が、深成はふるふると首を振った。
「やだよ~。今日はお蕎麦もあるし、花火もあるもん」
「花火?」
清五郎の横に座った千代が、ああ、と口を挟む。
「大晦日ですから、花火が上がるんです。上がる場所は結構遠いんですけど、山ですから、見えるんですよ」
「へぇ、そうか。そりゃいいな。部屋から見えるのか?」
「そうですわねぇ。ま、見えなかったら、ちょっと出ましょうか」
千代と清五郎は、良い感じで話している。
その前では半目の深成が真砂に寄りかかりながら、お蕎麦、と呟いている。
「今でそんな眠そうなのに、十二時まで起きてられるのかよ」
「今ちょっと寝て、十二時に起きるの」
「お前、一旦寝たら起きないだろうがっ」
ぎゃーすかと言いながらも、真砂はしぶしぶ腰を下ろす。
「寝てたら叩き起こすからな!」
「怖いよぅ~」
くしゃ、と顔を歪めながらも、深成は真砂から離れない。
にまにまと、あきはそんな二人を見た。
と、階段を降りてくる捨吉が目に入った。
「あ、そうだ。捨吉くん、使っちゃってごめんね」
当初の用事を思い出し、あきは捨吉に声をかけた。
あきの落としたものを探しに行っていたことになっているので、その体(てい)で会話する。
捨吉は、ちら、とあきを見、あ、うん、と呟いた。
何となく挙動不審だ。
---やっぱりあったのかしら? でもあたしの用事とは関係ないと思うはずよ---
すっかり安心していたあきだったが、捨吉は、あきの横に来ると、小声でぼそ、と囁いた。
「あのさ。あきちゃん、何落としたの……?」
「えっ」
そこまでは考えてなかったなぁ~と、一瞬呑気に思ったあきだったが、捨吉の表情に、はっとする。
この微妙な表情。
もしかして、あきがアレを落とした、と思っているのではないか?
「あっ! あの、えっと……。そう! あの、家の鍵! あの、いっつもほら、このポーチに入れてるんだけど、なかったからっ」
必死でいつも持っているものを考え、且つ何故今ないことに気付いたのかも補足する。
「お風呂に行く前に、このポーチ開けたからさ。そのとき落ちたのかと思って」
お風呂セットと一緒に持っていた小さなポーチを翳して言う。
捨吉が、やっと安心したように笑った。
「そ、そっか。うん、そうだよね」
あからさまに、ほっとしたような感じだ。
どっとあきの背を、妙な汗が流れた。
---ああああ……。やっぱりあたしが落としたのがアレだと思ったんだ。てことは、今日もアレ、あったってことよね。もぅあの人、何考えてんのよ---
あんなモノを己が落としたと思われていたことに、顔から火が出る思いだ。
---ま、まぁ上手く誤魔化せたことだし、あとは捨吉くんの反応を観察しておこう---
自分まで挙動不審になるのは怪しい。
あきはあんなモノ見てもいないはずなのだから。
心を落ち着け、密かに深呼吸していると、捨吉がようやくあきを見た。
「あ、で、か、鍵、なかったんだけど」
「え? あ、そ、そう? じゃあ鞄の中に落ちたのかしらね」
当たり前なのだ。
鍵はちゃんと鞄の中にある。
さして慌てることでもないが、自分で言った手前、あきは少し困った顔をした。