「……うそっ……。え、ほんとに?」

 スキーから帰って来て、部屋で上着を脱いで夕食に行った。
 そしてすぐに風呂に来たのだ。
 その間ベッドなどに目はやらなかった。

「うっそー! き、気付かなかった!!」

 がばっとあきが立ち上がる。
 こうしてはいられない。

「待ちなって。もしかしたら、私のところだけかもしれないじゃないか」

 千代も慌てて湯から上がる。
 脱衣所に出ると、浴衣を着た深成が、ふらふらと出ていくところだった。

「あ、わらわ、先に出てるね~」

 ひらひらと手を振る。
 が、その手を、ぱしっとあきが掴んだ。

「深成ちゃんっ! ちょっと、先にあたしたちの部屋に行って、ベッド周りを確かめてくれない?」

「へ?」

「お願い!」

「ん~、わかった」

 多分いかに深成でも、昨日アレを渡されているので、今日もわざわざベッドにアレがあったら、それのことを言っていたのだとわかるだろう。
 詳しく言わなくても回収しておいてくれるはずだ。
 ……多分。

 すでに半目になっているのが気になるが。

「あたしも、すぐに行くから!」

「はぁ~い」

 何となく間の抜けた答えを返し、深成ががらがらと引き戸を開けて出て行った。

「あれだけで、深成に伝わったとも思えないけど」

 千代が身体を拭きながら、戸を見て言った。

「でもアレ見つけたら、きっとわかってくれます」

 急いで浴衣を着ながら、あきが言う。

「そりゃ、見つけたらわかるだろうけど、それ以前だよ。何でベッド周りを確かめる必要があるのかってのがわかんないと、捨吉に言うかもだよ。私らより早く出てるだろうし」

 ぴき、とあきが固まった。
 今日は捨吉も皆とお風呂に行っていたし、男は女よりも早いだろう。

 慌ててあきは、荷物を引っ掴むと戸を引き開けた。

「み、深成ちゃんっ」

 たた、と小走りにロビーに出たあきの足が止まった。
 ロビーには真砂と清五郎が、ソファに向かい合わせに座っている。
 そして真砂の横には深成が、彼の肩を枕に、くーすかと寝息を立てていた。

---うわーー! 美味しい! ……て、いやそれどころじゃない!!---

 うっかり涎が垂れそうになったが、今は急を要する。
 しかも捨吉の姿がないのだ。
 あきは構わず、真砂にもたれて眠る深成の肩を叩いた。

「深成ちゃん! さっきの、見てくれた?」

 ちょっと真砂の視線を感じたが、怯まず深成を揺り起こす。
 深成が薄目を開けた。

「ん~……。大丈夫だよ。あんちゃんがいたから、あんちゃんに言っておいた」

「なっ何ですってぇ!!」

 あきが叫び、がばっと階段を見る。
 すでにそこにも捨吉の姿はない。

 あきは駆け出そうとしたが、ふと思い止まった。
 すでに捨吉が部屋に行ってしまったのであれば、そして深成に『ベッド周りを確かめろ』と言われたのであれば、見つけてしまっただろう。
 だったらもう、あきも知らないふりをしたほうがいいのではないか。

「……深成ちゃん、何て言ったの?」

 努めて気持ちを落ち着けつつ、あきは真砂にくっついている深成に聞いた。

「ん~? 何か、あきちゃんがベッドの辺を見ておいてって言ってたんだけどって。何か落としちゃったんじゃないかな~って言っておいた」

 相変わらず眠そうに目を擦りながら言う。
 ちょっと考え、あきは、ぎゅっと深成の手を握った。

 ただベッド周りを見ろ、とだけ伝えていたら、例のモノがあった場合、まるでそれをあきが主張したみたいだが、その言い方であれば大丈夫だ。