夕食時。
 食堂で出されたメニューに、深成はいつもながらに頬を緩めた。

「美味しい~~」

「深成ちゃん。タレがついてるよ」

 向かい側にいるあきが、顎をちょいちょいと指す。

「んん~……。今手が離せないよぅ」

 深成はとろとろに煮たスペアリブを食べている最中だ。
 両手で骨を掴まないといけないので、どちらの手もどろどろである。

「ったく、子供かお前は。垂らさんように食え」

 真砂がぶつぶつ言いながら、横からお手拭きで深成の顎を拭く。
 にやりとあきの目尻が下がった。

「さて、明日はどうするかな。皆、スキーか? スノボ?」

 そう言う清五郎はスノボだろう。
 自分の板も積んできていた。

「俺はどっちでもいいが……」

 ちらりと真砂が深成を見る。
 深成に合わすようだ。
 どちらでも問題なく滑れるということだろう。

「う~ん。わらわ、滑れるかなぁ。課長はスノボのほうが似合いそうだし。わらわも頑張ってスノボにしよっかなぁ」

 またも無邪気に深成が言う。

「お前はソリのほうがいいんじゃないか」

「だってソリだったら、課長遊んでくれないじゃん」

「……ソリに乗ることに抵抗はないわけか」

 呆れ気味に言う真砂をにまにまと見つめつつ、あきはちょっと羨ましくも思った。

---何だかんだで、良い感じよね。真砂課長も深成ちゃんのことを第一に考えてるし。深成ちゃんも真砂課長に全幅の信頼を置いてるみたいだわ---

 ここまで嫌味なく甘えられるのは深成だからなのだろう。
 自分にはとても『捨吉に合わせてスノボにする』とか『捨吉と一緒に遊びたい』といった主張は出来ない。
 多分シャレにならないのだ。

「俺はどうしよっかな。スノボは自信ないな~。スキーにしようかな」

 う~ん、と考え、捨吉が呟いた。

「お千代さんもスノボだよな。じゃあ、捨吉はスキー、と。あきちゃんはどうする?」

「あ、う~ん。あたしもスノボは怖いかなぁ。ていうか深成ちゃん、大丈夫なの?」

 スノボは結構スピードが出る。
 子供のスポーツではないのだ。
 ……子供ではないのだが。

「スノボって結構危険だよ?」

「え、そうなの?」

 きょとんとする深成に、清五郎が笑った。

「まぁなぁ。スピードがないと面白くないしな」

「わらわ、速いのは怖くないもん」

「じゃあ大丈夫かな。スピードを恐れないなら上達は早いぜ。派遣ちゃんは運動神経良さそうだし。ま、何かあっても真砂が助けてくれるだろ」

 清五郎が、相変わらず爽やかに意味ありげなことを言う。
 その横で、真砂が無表情に口を挟んだ。

「お前の場合は、それ以前に合う板があるかどうかだろ」

「何さ、それ」

「そんな小さい奴用の板など見たことないぞ。子供用の板ってあるのか?」

「わらわ、そんな小さくないっての!」

 いつものやり取りをしている間に、夕食は終わった。

「深成、あき。お風呂に行ってしまおうよ」

 二階に上がりながら、千代が二人に言う。

「うん、そうだね! 温泉なんだよね、楽しみ~」

「じゃ、用意してきますね」

 女子陣はいそいそとお風呂の用意をして温泉に向かう。

「女の子は風呂が好きだなぁ。野郎同士で入っても楽しみもないが。けどまぁ、俺たちも入ってしまうか」

「えっとぉ……。お、俺は後で行くことにします」

 捨吉が、部屋の前で足を止めて言った。

「どうしたんだ? 腹でも痛いのか?」

「い、いえ。と、とにかく課長たちは気にせず先にどうぞ」

 ではっと言って、そそくさと部屋に入る。
 あきがお風呂に入っているうちに自分も入ってしまうと、その後の二人の時間が長くなる。
 それならあきが帰って来てから入れ替わりで行けば、風呂の時間が倍になるではないか。

 捨吉はやはり、夜にあきと二人っきりというのが、どうしていいのかわからないのだ。

「まぁいいが。あ、それなら俺らの部屋の鍵、預かっておいてくれ。もしあいつらが先に帰ってきたら、渡してやっておいてくれよ」

「わかりました」

 結局純情な捨吉は部屋に残り、清五郎と真砂は風呂場へ向かった。