お昼頃に、目的地に着いた。
前もって千代が連絡を入れていたため、駐車場に車を停めていると、中からオーナーらしき男の人が出て来て出迎えてくれた。
「兄上。こちらが上司の真砂課長。で、こちらが今回の旅を企画してくださった二課の清五郎課長。あとは後輩の捨吉、あきに、派遣の深成ですわ」
「遠路はるばる、ようこそおいでくださいました。千代がいつもお世話になっております。兄の源七郎です」
にこやかに挨拶する男の人は、髭もじゃの偉丈夫だ。
皆と挨拶を交わし、荷物運びを手伝いつつ中に案内する。
「おんや、いらっしゃい。お噂は千代からお聞きしておりますよ。母のセツでございます」
調理場と思われる食堂の奥から、上品そうな初老の女性が出て来て挨拶をした。
そして清五郎をガン見する。
「……何か?」
真砂のような愛想無しではなく、爽やかな笑みと共に、清五郎が口を開く。
セツはにこりと笑い、いえいえ、と手を振った。
「課長さんはお二方とも独身でいらっしゃるとか。どうです、千代など」
一応真砂と清五郎の二人に言っているが、セツの目は清五郎を見ている。
客商売なので愛想の良い清五郎に白羽の矢を立てたのか。
それとも千代から何か聞いているのか、はたまた真砂の少し後ろに控える深成に、何やら感づいたのか。
心の内はわからないが、何気にいきなり凄いことを言う母親だ。
「ちょっと母上、何言ってるんだ。いきなり困らすようなこと言わないでおくれよ」
千代が慌ててフォローするも、清五郎は何てことのないように笑う。
「俺はそのつもりなんだが。お千代さんが、なかなか靡いてくれないんですよ」
「おんや、まぁ」
爽やかに笑う清五郎と、けらけら笑うセツは、どちらも凄いことを言っているのに、冗談なんだか本気なんだかわからない。
赤くなる千代はそのままに、セツはいそいそとカウンターの奥に回り、キーボックスから部屋の鍵を取り出した。
「それはよぅございました。お部屋もちゃんと押さえております故」
にこにことカウンターの上に鍵を並べる。
三つ。
三部屋ということだ。
「お部屋は二階の端から順番です。お食事はこちらの食堂で。お風呂はそちらの通路を進んでいただくと階段がありますので、そこを降りたところになります」
「はい、お世話になります」
清五郎が鍵を受け取り、皆を促す。
千代の背を、セツが意味ありげに、ぽん、と叩いてにやりと笑った。
「さてじゃあ、まぁ……普通に考えると、それぞれ男女ペアで一部屋だな」
部屋の前で、清五郎が皆を振り返る。
「んと、だったらわらわ、課長がいい」
何の躊躇いもなく言い、深成が真砂の横につく。
清五郎が真砂に鍵を渡しながら、苦笑いした。
「ま、そうだろうな。いいよな、派遣ちゃんはそういうことを言っても、全然おかしくない」
そして、千代を見る。
「お千代さんは? 俺とでいいか?」
「ええ。もちろん」
「てことで……」
千代に了解を得た清五郎が、捨吉に最後の鍵を差し出した。
「えっ……」
捨吉が固まる。
あきもその後ろで、同じように固まった。
「ゆいがいたら、ここでまたえらいことになるだろうけどなぁ」
はっはっは、と笑いつつ、清五郎も真砂も普通に鍵を開けてドアを開いた。
慌てて捨吉が、清五郎に縋り付く。
「え、い、いやっ! あの、えっと……。いやいや、こういう場合って、普通三人三人の二部屋になるんじゃないですかっ?」
「野郎ばっかで一部屋に籠れるかよ」
「それに三人一部屋だったら、二人部屋にエキストラベッドだもの。狭いから嫌だよ」
清五郎と千代に、あっさりと却下される。
捨吉が妙な汗をだらだら流しているうちに、深成は部屋に入ってはしゃいでいる。
「わー、千代ぉ。部屋の中も可愛いね~っ! ペンギンがいる~」
「深成、それ加湿器だからね。スイッチ入れておきなよ」
深成と千代は、お互い相手に不足はないようだし、一つの部屋に泊まることにも抵抗はないらしい。
捨吉だって、あきが嫌なわけではないのだが、この二人はいまだにお互いの気持ちがわかっていない。
清五郎や真砂のように大人でない分、好きな子と一つの部屋に泊まるということに、抵抗というか躊躇いがあるのだ。
前もって千代が連絡を入れていたため、駐車場に車を停めていると、中からオーナーらしき男の人が出て来て出迎えてくれた。
「兄上。こちらが上司の真砂課長。で、こちらが今回の旅を企画してくださった二課の清五郎課長。あとは後輩の捨吉、あきに、派遣の深成ですわ」
「遠路はるばる、ようこそおいでくださいました。千代がいつもお世話になっております。兄の源七郎です」
にこやかに挨拶する男の人は、髭もじゃの偉丈夫だ。
皆と挨拶を交わし、荷物運びを手伝いつつ中に案内する。
「おんや、いらっしゃい。お噂は千代からお聞きしておりますよ。母のセツでございます」
調理場と思われる食堂の奥から、上品そうな初老の女性が出て来て挨拶をした。
そして清五郎をガン見する。
「……何か?」
真砂のような愛想無しではなく、爽やかな笑みと共に、清五郎が口を開く。
セツはにこりと笑い、いえいえ、と手を振った。
「課長さんはお二方とも独身でいらっしゃるとか。どうです、千代など」
一応真砂と清五郎の二人に言っているが、セツの目は清五郎を見ている。
客商売なので愛想の良い清五郎に白羽の矢を立てたのか。
それとも千代から何か聞いているのか、はたまた真砂の少し後ろに控える深成に、何やら感づいたのか。
心の内はわからないが、何気にいきなり凄いことを言う母親だ。
「ちょっと母上、何言ってるんだ。いきなり困らすようなこと言わないでおくれよ」
千代が慌ててフォローするも、清五郎は何てことのないように笑う。
「俺はそのつもりなんだが。お千代さんが、なかなか靡いてくれないんですよ」
「おんや、まぁ」
爽やかに笑う清五郎と、けらけら笑うセツは、どちらも凄いことを言っているのに、冗談なんだか本気なんだかわからない。
赤くなる千代はそのままに、セツはいそいそとカウンターの奥に回り、キーボックスから部屋の鍵を取り出した。
「それはよぅございました。お部屋もちゃんと押さえております故」
にこにことカウンターの上に鍵を並べる。
三つ。
三部屋ということだ。
「お部屋は二階の端から順番です。お食事はこちらの食堂で。お風呂はそちらの通路を進んでいただくと階段がありますので、そこを降りたところになります」
「はい、お世話になります」
清五郎が鍵を受け取り、皆を促す。
千代の背を、セツが意味ありげに、ぽん、と叩いてにやりと笑った。
「さてじゃあ、まぁ……普通に考えると、それぞれ男女ペアで一部屋だな」
部屋の前で、清五郎が皆を振り返る。
「んと、だったらわらわ、課長がいい」
何の躊躇いもなく言い、深成が真砂の横につく。
清五郎が真砂に鍵を渡しながら、苦笑いした。
「ま、そうだろうな。いいよな、派遣ちゃんはそういうことを言っても、全然おかしくない」
そして、千代を見る。
「お千代さんは? 俺とでいいか?」
「ええ。もちろん」
「てことで……」
千代に了解を得た清五郎が、捨吉に最後の鍵を差し出した。
「えっ……」
捨吉が固まる。
あきもその後ろで、同じように固まった。
「ゆいがいたら、ここでまたえらいことになるだろうけどなぁ」
はっはっは、と笑いつつ、清五郎も真砂も普通に鍵を開けてドアを開いた。
慌てて捨吉が、清五郎に縋り付く。
「え、い、いやっ! あの、えっと……。いやいや、こういう場合って、普通三人三人の二部屋になるんじゃないですかっ?」
「野郎ばっかで一部屋に籠れるかよ」
「それに三人一部屋だったら、二人部屋にエキストラベッドだもの。狭いから嫌だよ」
清五郎と千代に、あっさりと却下される。
捨吉が妙な汗をだらだら流しているうちに、深成は部屋に入ってはしゃいでいる。
「わー、千代ぉ。部屋の中も可愛いね~っ! ペンギンがいる~」
「深成、それ加湿器だからね。スイッチ入れておきなよ」
深成と千代は、お互い相手に不足はないようだし、一つの部屋に泊まることにも抵抗はないらしい。
捨吉だって、あきが嫌なわけではないのだが、この二人はいまだにお互いの気持ちがわかっていない。
清五郎や真砂のように大人でない分、好きな子と一つの部屋に泊まるということに、抵抗というか躊躇いがあるのだ。