【キャスト】
mira商社 課長:真砂・清五郎 派遣事務員:深成
社員:捨吉・あき・千代
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「なぁ真砂。年末年始は何か予定ありか?」

 いつもの会議が終わったところで、清五郎が真砂に声をかけた。

「いや、別に何もないが」

 すでに世間は年末だ。
 会社も年度末の締めに忙しい。
 これが終われば冬季の休暇が待っている。

「お千代さんの兄さんがやってるペンションがあるんだが、行かないか?」

「……また社員旅行かよ」

 ちょっと渋い顔で、真砂が言う。
 夏にも営業の何人かで旅行に行った。
 だが勝手なことをする強烈な女子がいたせいで、どうもまた行こうという気にならない。

「いやぁ、今回は社員旅行じゃないぜ。純粋に、まぁ……それなりの関係の奴だけで行こうと思う」

 意味ありげに薄く笑いながら、清五郎は、今回は完全なプライベートだ、と言い添えた。

「俺と真砂と、お千代さんに派遣ちゃん。あと、捨吉とあきちゃんで行こうと思う。六人だったら俺の車で行けるだろ」

 清五郎の車は、七人乗りのワンボックスだ。

「そうだな……。じゃあそうするか」

「決まりだな。後でメールを入れておく」

 そう言って、二人はそれぞれ自席に戻った。



「ねぇ千代。千代のお兄さんがやってるペンションてどんなとこ?」

 清五郎からメールが回った次の日のお昼。
 あきは外出だったので、深成は千代とブースでお昼を食べていた。

「スキー場のすぐ前だよ。小さいけどね、温泉もあるし、良いとこだよ」

「へ~。凄いねぇ、そんなお宿やってるんだ」

「でもスキー場自体が小さいし、あんまり人も知らないところだから、なかなか大変みたいだけどね。母親と、兄夫婦がやってるんだよ」

「千代のお兄さんだったら、格好良いだろうね」

「どんな男も真砂課長には負けるよ」

「真砂課長は別格だよ」

 間髪入れずに返す深成に苦笑いをこぼし、千代はスマホを操作してペンションのHPを出した。

「ほら、ここ」

「わぁ、可愛いね」

 HPの写真には、こじんまりとした小さな建物が映っている。
 とんがり屋根のログハウスだ。

「家族でやってるからね、そんな大々的に出来ないし」

「ふ~ん。でも何で清五郎課長が知ってんの?」

「去年、そんな話をしたんだよ。そしたら清五郎課長が行ってみたいって。去年はもうほんとの年末だったし、休みに入ってたから行けなかったけど」

 休みに入っていたのにそういう話をしたということは、休みの間に会っていた、ということなのだが、幸いというべきか、深成にはそこまでわからない。

「そっか。今回はあんちゃんたちと六人だし、楽しみ」

「あんたはゆいが苦手だもんね」

 にこにこと言う深成に、千代が頷きながら言う。
 深成は卵焼きを食べながら、少し頬を膨らませた。

「何であの人、あんなにわらわに意地悪するの? 大して喋ったこともないのにさ、初めっからあんな感じだったよ?」

「そりゃ、ゆいは捨吉が好きだからだよ」

「だから、何でそれで、わらわに意地悪するの。わらわが好きなのは真砂課長なのに」

 さらっと言ってから、あ、と深成は口を押さえた。
 ぶは、と千代が吹き出す。

「何慌ててるんだ。そんなこと、とっくにわかってるって」

「え、何でっ?」

 赤くなって狼狽えつつ、深成が言う。

「何でって。あんた、清五郎課長ん家での鍋パーティーのとき、はっきり言ったじゃないか。それでなくても、見てりゃわかるよ」

 わたわたと焦る深成はお構いなしに、千代は何てことのないように続ける。

「まぁそんなことは珍しいことじゃない。真砂課長のことは、私だって好きだもの。それだって、周知の事実だろ」

「そ、そういえば」

「真砂課長のことを好きだってのは、普通のことだよ。ただあんたは、本気度が違うっていうか。ま、真砂課長のほうが、あんたを好きなんだし」

「ち、千代っ」

 顔から火が出る勢いで慌てる深成を面白そうに見ながら、千代は優雅にプチトマトを口に入れた。

「ゆいがあんたを苛めるのは、真砂課長どうこうっていうんじゃないよ。まぁ多少はあるだろうけど。あいつにとっても真砂課長は憧れだしね。ただでさえ捨吉に可愛がられてるってのに、さらにそんな大層な人にも可愛がられてるなんて、気に食わないんじゃないか?」

「え~……? 可愛がられてるっていうか、単に仲良しだっていうだけじゃん」

「ま、自分じゃわかんないかもね」

 無自覚だからこそいいのだ。
 深成を好きな者からすると、この無自覚な無防備さは堪ったものではないだろうが。

「とにかく楽しみだね」

「うん!」

 旅行自体は楽しみだ。
 一瞬で千代にバレていることを忘れ、深成は嬉しそうに頷いた。