【キャスト】
mira商社 課長:真砂・清五郎 派遣事務員:深成
社員:捨吉・あき・千代
・:・☆・:・★・:・☆・:・★・:・☆・:・★・:・☆
「なぁ真砂。年末年始は何か予定ありか?」
いつもの会議が終わったところで、清五郎が真砂に声をかけた。
「いや、別に何もないが」
すでに世間は年末だ。
会社も年度末の締めに忙しい。
これが終われば冬季の休暇が待っている。
「お千代さんの兄さんがやってるペンションがあるんだが、行かないか?」
「……また社員旅行かよ」
ちょっと渋い顔で、真砂が言う。
夏にも営業の何人かで旅行に行った。
だが勝手なことをする強烈な女子がいたせいで、どうもまた行こうという気にならない。
「いやぁ、今回は社員旅行じゃないぜ。純粋に、まぁ……それなりの関係の奴だけで行こうと思う」
意味ありげに薄く笑いながら、清五郎は、今回は完全なプライベートだ、と言い添えた。
「俺と真砂と、お千代さんに派遣ちゃん。あと、捨吉とあきちゃんで行こうと思う。六人だったら俺の車で行けるだろ」
清五郎の車は、七人乗りのワンボックスだ。
「そうだな……。じゃあそうするか」
「決まりだな。後でメールを入れておく」
そう言って、二人はそれぞれ自席に戻った。
「ねぇ千代。千代のお兄さんがやってるペンションてどんなとこ?」
清五郎からメールが回った次の日のお昼。
あきは外出だったので、深成は千代とブースでお昼を食べていた。
「スキー場のすぐ前だよ。小さいけどね、温泉もあるし、良いとこだよ」
「へ~。凄いねぇ、そんなお宿やってるんだ」
「でもスキー場自体が小さいし、あんまり人も知らないところだから、なかなか大変みたいだけどね。母親と、兄夫婦がやってるんだよ」
「千代のお兄さんだったら、格好良いだろうね」
「どんな男も真砂課長には負けるよ」
「真砂課長は別格だよ」
間髪入れずに返す深成に苦笑いをこぼし、千代はスマホを操作してペンションのHPを出した。
「ほら、ここ」
「わぁ、可愛いね」
HPの写真には、こじんまりとした小さな建物が映っている。
とんがり屋根のログハウスだ。
「家族でやってるからね、そんな大々的に出来ないし」
「ふ~ん。でも何で清五郎課長が知ってんの?」
「去年、そんな話をしたんだよ。そしたら清五郎課長が行ってみたいって。去年はもうほんとの年末だったし、休みに入ってたから行けなかったけど」
休みに入っていたのにそういう話をしたということは、休みの間に会っていた、ということなのだが、幸いというべきか、深成にはそこまでわからない。
「そっか。今回はあんちゃんたちと六人だし、楽しみ」
「あんたはゆいが苦手だもんね」
にこにこと言う深成に、千代が頷きながら言う。
深成は卵焼きを食べながら、少し頬を膨らませた。
「何であの人、あんなにわらわに意地悪するの? 大して喋ったこともないのにさ、初めっからあんな感じだったよ?」
「そりゃ、ゆいは捨吉が好きだからだよ」
「だから、何でそれで、わらわに意地悪するの。わらわが好きなのは真砂課長なのに」
さらっと言ってから、あ、と深成は口を押さえた。
ぶは、と千代が吹き出す。
「何慌ててるんだ。そんなこと、とっくにわかってるって」
「え、何でっ?」
赤くなって狼狽えつつ、深成が言う。
「何でって。あんた、清五郎課長ん家での鍋パーティーのとき、はっきり言ったじゃないか。それでなくても、見てりゃわかるよ」
わたわたと焦る深成はお構いなしに、千代は何てことのないように続ける。
「まぁそんなことは珍しいことじゃない。真砂課長のことは、私だって好きだもの。それだって、周知の事実だろ」
「そ、そういえば」
「真砂課長のことを好きだってのは、普通のことだよ。ただあんたは、本気度が違うっていうか。ま、真砂課長のほうが、あんたを好きなんだし」
「ち、千代っ」
顔から火が出る勢いで慌てる深成を面白そうに見ながら、千代は優雅にプチトマトを口に入れた。
「ゆいがあんたを苛めるのは、真砂課長どうこうっていうんじゃないよ。まぁ多少はあるだろうけど。あいつにとっても真砂課長は憧れだしね。ただでさえ捨吉に可愛がられてるってのに、さらにそんな大層な人にも可愛がられてるなんて、気に食わないんじゃないか?」
「え~……? 可愛がられてるっていうか、単に仲良しだっていうだけじゃん」
「ま、自分じゃわかんないかもね」
無自覚だからこそいいのだ。
深成を好きな者からすると、この無自覚な無防備さは堪ったものではないだろうが。
「とにかく楽しみだね」
「うん!」
旅行自体は楽しみだ。
一瞬で千代にバレていることを忘れ、深成は嬉しそうに頷いた。
mira商社 課長:真砂・清五郎 派遣事務員:深成
社員:捨吉・あき・千代
・:・☆・:・★・:・☆・:・★・:・☆・:・★・:・☆
「なぁ真砂。年末年始は何か予定ありか?」
いつもの会議が終わったところで、清五郎が真砂に声をかけた。
「いや、別に何もないが」
すでに世間は年末だ。
会社も年度末の締めに忙しい。
これが終われば冬季の休暇が待っている。
「お千代さんの兄さんがやってるペンションがあるんだが、行かないか?」
「……また社員旅行かよ」
ちょっと渋い顔で、真砂が言う。
夏にも営業の何人かで旅行に行った。
だが勝手なことをする強烈な女子がいたせいで、どうもまた行こうという気にならない。
「いやぁ、今回は社員旅行じゃないぜ。純粋に、まぁ……それなりの関係の奴だけで行こうと思う」
意味ありげに薄く笑いながら、清五郎は、今回は完全なプライベートだ、と言い添えた。
「俺と真砂と、お千代さんに派遣ちゃん。あと、捨吉とあきちゃんで行こうと思う。六人だったら俺の車で行けるだろ」
清五郎の車は、七人乗りのワンボックスだ。
「そうだな……。じゃあそうするか」
「決まりだな。後でメールを入れておく」
そう言って、二人はそれぞれ自席に戻った。
「ねぇ千代。千代のお兄さんがやってるペンションてどんなとこ?」
清五郎からメールが回った次の日のお昼。
あきは外出だったので、深成は千代とブースでお昼を食べていた。
「スキー場のすぐ前だよ。小さいけどね、温泉もあるし、良いとこだよ」
「へ~。凄いねぇ、そんなお宿やってるんだ」
「でもスキー場自体が小さいし、あんまり人も知らないところだから、なかなか大変みたいだけどね。母親と、兄夫婦がやってるんだよ」
「千代のお兄さんだったら、格好良いだろうね」
「どんな男も真砂課長には負けるよ」
「真砂課長は別格だよ」
間髪入れずに返す深成に苦笑いをこぼし、千代はスマホを操作してペンションのHPを出した。
「ほら、ここ」
「わぁ、可愛いね」
HPの写真には、こじんまりとした小さな建物が映っている。
とんがり屋根のログハウスだ。
「家族でやってるからね、そんな大々的に出来ないし」
「ふ~ん。でも何で清五郎課長が知ってんの?」
「去年、そんな話をしたんだよ。そしたら清五郎課長が行ってみたいって。去年はもうほんとの年末だったし、休みに入ってたから行けなかったけど」
休みに入っていたのにそういう話をしたということは、休みの間に会っていた、ということなのだが、幸いというべきか、深成にはそこまでわからない。
「そっか。今回はあんちゃんたちと六人だし、楽しみ」
「あんたはゆいが苦手だもんね」
にこにこと言う深成に、千代が頷きながら言う。
深成は卵焼きを食べながら、少し頬を膨らませた。
「何であの人、あんなにわらわに意地悪するの? 大して喋ったこともないのにさ、初めっからあんな感じだったよ?」
「そりゃ、ゆいは捨吉が好きだからだよ」
「だから、何でそれで、わらわに意地悪するの。わらわが好きなのは真砂課長なのに」
さらっと言ってから、あ、と深成は口を押さえた。
ぶは、と千代が吹き出す。
「何慌ててるんだ。そんなこと、とっくにわかってるって」
「え、何でっ?」
赤くなって狼狽えつつ、深成が言う。
「何でって。あんた、清五郎課長ん家での鍋パーティーのとき、はっきり言ったじゃないか。それでなくても、見てりゃわかるよ」
わたわたと焦る深成はお構いなしに、千代は何てことのないように続ける。
「まぁそんなことは珍しいことじゃない。真砂課長のことは、私だって好きだもの。それだって、周知の事実だろ」
「そ、そういえば」
「真砂課長のことを好きだってのは、普通のことだよ。ただあんたは、本気度が違うっていうか。ま、真砂課長のほうが、あんたを好きなんだし」
「ち、千代っ」
顔から火が出る勢いで慌てる深成を面白そうに見ながら、千代は優雅にプチトマトを口に入れた。
「ゆいがあんたを苛めるのは、真砂課長どうこうっていうんじゃないよ。まぁ多少はあるだろうけど。あいつにとっても真砂課長は憧れだしね。ただでさえ捨吉に可愛がられてるってのに、さらにそんな大層な人にも可愛がられてるなんて、気に食わないんじゃないか?」
「え~……? 可愛がられてるっていうか、単に仲良しだっていうだけじゃん」
「ま、自分じゃわかんないかもね」
無自覚だからこそいいのだ。
深成を好きな者からすると、この無自覚な無防備さは堪ったものではないだろうが。
「とにかく楽しみだね」
「うん!」
旅行自体は楽しみだ。
一瞬で千代にバレていることを忘れ、深成は嬉しそうに頷いた。