「……まぁ、ゆいが今ここにいたら、俺が送らないといかん羽目になるしな」

「そういやあいつは、何も持ってないみたいだったぞ」

 ふと、真砂が思い出したように言った。
 清五郎が渋い顔をする。

「下手に財布でも持ってたら、捨吉のところで降りても帰らされる可能性もあるからか。ったく、そういうところは頭が回るんだな。あ~あ、あきちゃんにも迷惑な話だよなぁ。荷物だって、お千代さんが気を利かせて持って帰ってくれたし。あらゆる人に迷惑をかけて、全く情けない」

 大きくため息をつく。
 そして、運転席のドアを開けた。

「そんじゃな。真砂もお疲れさん」

「お前もな」

「わざわざありがとう。お疲れさまでした」

 頭を下げる深成に軽く手を挙げ、清五郎はドアを閉めると車を出した。
 それを見送り、ちらりと深成は真砂を見た。

「えっと。あ、荷物、ありがとう」

 言いつつトランクに回る。
 だが真砂はそのまま運転席に戻った。

「乗れ」

 顎で助手席を示す。

「え、このまま?」

 慌てて深成は、助手席に乗り込んだ。
 すぐに真砂は車を出す。

「荷物置いて来ても良かったじゃん」

「別に俺の家に置いておいても一緒だろ」

 着々と、真砂の家に深成の荷物が増えて行く。
 密かに引っ越しが進んでいるようで、深成はちょっと赤くなった。

「あきちゃん、大丈夫かな」

 話題を逸らすように言った深成に、真砂は前を向いたまま、ぽつりと言った。

「お前はどうだったんだ。また何かいらんことされなかったか?」

 ん、と深成が首を傾げる。

「ま、お前を最後に送ったってことは、あのガキにお前の家が割れることはないってことだが」

 真砂の言葉に、ああ、と頷き、深成は少し笑った。

「課長って心配性だねぇ。そんなこと気にしてたの」

「あきも言ってたぞ。気になる奴の家を知ると、押しかけるのも可能だってな。ああ、だから捨吉はロータリーを希望したのか」

 なるほど、と納得する。
 皆が皆そんなことをする人間ではないだろうが、確かにゆいに関してはやりかねない。
 あきの言ったことも、あながち大袈裟ではないのだ。

「あんちゃんも災難だねぇ~。あんなにぐいぐい来られたら、押し切られちゃう」

 ちろ、と真砂が深成を見た。

「あいつだって、お前と二人になったら結構迫るだろ」

「え、そうかなぁ。今回だって、ほとんど喋ってないし。清五郎課長の車の中だって喋ってないよ。大体わらわは、ちゃんと課長の彼女だもん」

 ぷん、と言うと、真砂は少しだけ口角を上げた。

「あんちゃんも、あきちゃんのこと好きなんだったら、ちゃんと言えばいいのに。何かさ、皆、ちゃんと言わないね」

「皆?」

「清五郎課長だってさ、千代のこと好きなのに、千代にそのこと言わないし」

「へー、そうなのか」

 少し意外そうに、真砂が声を上げる。
 だが元々人に興味のない人間なので、そういうことにもあまり関心はないのだが。

「課長は清五郎課長と仲良しなのに、そういう話しないの?」

「仲良しってほどでもない。大体男同士でそんなこと話すかよ」

「そっか。……あ! でも課長っ。そういえば、あんちゃんとはそういう話、したんでしょ」

「俺がそんな話をするように見えるのか?」

 妙な顔で言う。
 自分で聞いておいて、深成はふるふると首を振った。

「思わない。でもこの前あんちゃんに聞いた。結構前だけどさ、課長、どっかのお客さんに告白されたって聞いたもん」

 ぷぅ、と膨れる。
 真砂は思い切り首を傾げた。
 すっとぼけている感じではなく、本当に心当たりがないらしい。

「ほらっ、前~にさ、わらわとあきちゃんと、帰りの電車で会ったじゃん。課長はあんちゃんといてさ。そうそう、金曜日だったけど、あんちゃんらがいたから、わらわ、課長のとこに行けなくて。課長が来てくれたことあったじゃん」

「……ああ、そんなこともあったかな」

「あの日、課長、お客さんのところで、そういうことがあったんでしょ?」

「……そんなこともあったかなぁ……」

 う~ん、とさらに首を捻る。
 深成に関することは覚えているようだが、他の女に関することなど記憶に残らないらしい。
 何ともわかりやすい。

「課長、もてるもんね。お手紙貰うことだって珍しくないって言ってたし」

 拗ねたように言う深成に、真砂は何てことのないように答えた。

「そんな手紙、ゴミなだけだぜ」

「課長だって、綺麗だなって思う人とかいるでしょ?」

「さぁ? 人の顔など必要以上に見ない。美人かそうでないかぐらいはわかるが、だからどう、ということはないな。お前がいるのに、それこそ必要ないだろ」

「課長~~っ!」

 真砂が言うなり、深成ががばっと真砂の腕に抱き付く。
 さらっと不安を拭い去ってくれたことが嬉しくて、真砂の腕にへばりついたまま、深成はいつものように、真砂にお持ち帰りされるのであった。

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 海水浴編。う~む、今回は結構筆の進みが鈍かったな。
 つか、真砂と深成のやり取りではすいすい進むんだけど。
 人数が多かったら二人のいちゃいちゃはないですからね。

 しかし羽月、影薄っ!いること忘れそうな勢いです( ̄▽ ̄)
 ここはもう切り崩し不可能ですからねぇ。羽月は頑張りようがないのです。

 その分ゆいがぐいぐい来る。
 とうとう大人しいあきがキレてしまいました。
 しかしそれでもゆいは諦めないのでしょう。

 捨吉の最寄り駅を掴んだゆい。さぁこの先どういう行動に出るのか( ̄▽ ̄)

 ほんといい加減に、どっちか告白しちゃえばいいのに。
 清五郎のように余裕ぶっかませるほど大人じゃないんだし。

 次は雪山編の予定なんだが(季節無視。海の後は一気に冬ですわ)、これ、どうしよう。
 これもまたこのメンバーで行くことにするか、二人っきりにするか。

 う~ん、二人だと真砂のスピードに深成がついて行けないだろうしなぁ。
 つか、深成はスキーだろうとスノボだろうと出来るのだろうか。ソリできゃっきゃ遊んでそう( ̄▽ ̄;)

 そう考えると他のメンバーも入れたほうがいい気もするんだが、そうすると甘々度が下がる。
 なかなか二人になれないしね。その分最後とかに、ぎゅっと濃縮されるけど。

 けど他にもいたら、真砂は常にお預けだぜ。どーすっかな。

2015/10/15 藤堂 左近