【キャスト】
mira商社 課長:真砂・清五郎 派遣事務員:深成
社員:捨吉・あき・千代・ゆい・羽月
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 それはいつものランチミーティングでの出来事だった。
 メンバーはこれまたいつもと変わらぬ真砂と清五郎。
 お気に入りの二人を侍らせ、ミラ子社長は優雅に紅茶を啜った。

「うちの営業部は優秀や。真砂課長には高山建設からの出向者を見事に仕込んで貰ったし、清五郎課長にはややこしい案件を見事に捌いて貰った。ほんま、二人には頭が上がりまへん」

「社長にそう言って貰えることが、我々社員の誇りです」

 爽やかに、清五郎が返す。
 模範的な答えに満足そうに頷き、ミラ子社長はぴらりと一枚の紙を取り出した。
 それを、ずいっと差し出す。

「月野リゾート・海辺のコテージ?」

 真砂と清五郎の前に差し出されたチラシは、有名リゾートホテルの運営する小洒落たコテージのものだ。
 高級リゾートホテルチェーンだけあり、小さいながらも綺麗な、完全独立型の貸し切り宿泊施設らしい。

「そこ、この夏借りてるんや。その前の海も貸し切りやで。裏手にはちょっと行ったら小さい山もある。ええとこやろ?」

「この会社が運営してるんであれば、相当良いところでしょうね」

 二人とも、行ったことはないが名前は知っている。

「営業の皆は頑張ってくれてるから、労わってあげなな。てことで、そこ、行っておいで」

「は?」

 真砂がミラ子社長を見た。
 行って来いとはどういうことか。

「来週から盆休みやろ。それ利用して行って来たらええ。それぞれで行ってもええし、適当に仲良いメンバーで固まって行ってもええし。軽い社員旅行をプレゼントっちゅーっこっちゃ」

「社員旅行というのは、皆で行くものでは」

「そんなんおもんないやろ。うちの会社全員で行くんやったら、それまでにいろいろ準備が大変やし、面倒やわ」

「つまり、大勢でわらわら行くのは面倒だから、施設だけ借り上げたから、あとは自分たちで行って来い、と」

「そういうこっちゃ」

 はっきり言って社員旅行ではないが、なるほど、どうせ行くならそのほうがありがたい。
 会社全員と行くと気も遣うし、だったら仲の良い者たちで行ったほうが楽しいだろう。

「あ、うちの社員旅行とはいえ、派遣ちゃんも連れて行ったりや」

 不意にミラ子社長が、思い出したように扇を真砂に突き付けた。

「あの子かって小さいナリで頑張ってるんやから。きっと喜ぶで」

 にまにまと言う。
 ちょっと真砂が視線を逸らせた。

「確かに。あの子が一番喜びそうだな。でも真砂、しっかり監視しておけよ。溺れたり流されたりしたら大変だぜ」

「……一応あいつも、大人なんだから。そんなことは……」

 ここまで言って、真砂は思わず口を噤んだ。
 『ない』とは言えない。
 ちょっと大きな波が来たら流されそうだ。
 いや、その前に泳げるのだろうか。

「……まぁ、危なかったら浜で遊ばしておけばいいだろ」

 何歳なんだ、という結論を下し、真砂と清五郎はミラ子社長に礼を言って、社長室を後にした。



 そして夕刻、清五郎からいつものメンバーにメールが入った。

「うわ、月野リゾートって凄いじゃないか」

 千代が声を上げる。

「素敵。このコテージ一軒を、丸々借りられるんですね」

 あきも送られてきた添付資料を見て言う。
 予定としては二泊三日の旅行だ。
 昼間は海で遊んで、夜はBBQ。

 西組は真砂、東組は清五郎が車を出す。
 日程はお盆休みの中の三日間。

「えっと、どういう風に拾って行くの?」

 ちらちらと真砂を見ながら、深成が言う。
 真砂は地図を見ながら、少し考えた。

「ここだと清五郎たちとは現地集合か、途中のパーキングで待ち合わせだな。近い順に、お前からあき、捨吉の順に拾っていく」

「そか」

 ほ、と深成は胸を撫で下ろした。
 深成から拾われるのであれば、その前から一緒にいてもいいわけだ。

 うきうきと、深成は持っていくもの(多分お菓子)などを考えた。