「そんな重いもんばっかり食えるか」

「美味しいのに〜。真砂、年寄りなんじゃないの? リンゴも一つ丸々食べられないしさ」

「阿呆。あれはお前があまりにひもじそうな目で見るから、恵んでやったんだ」

「ひもじそうになんか見てないもんっ」

「だったら人の食ってるものを、穴があくほど見るのはやめろ」

「だって真砂が食べる果物って、凄く美味しいんだもんっ」

 ぶーぶー言っているうちに、待ちくたびれた店員が、オーダーを取りに来た。

「深成ちゃん、カルボナーラ食べたいなら、私とする?」

 六郎が言うが、真砂は深成の答えを聞かずに、とっとと店員に向かって、ちょい、とメニューを指した。

「明太子の温泉卵添えをLで」

「あらじゃあ、こっちは京野菜の和風パスタでいいかしら? を、Mで」

 千代もすかさずオーダーする。
 大きさからいって、真砂がオーダーしたほうが、深成の分だろう。
 (多分この中で一番食べるのが深成だ)

 六郎が、ちょっと微妙な顔で真砂を見た。

「明太子だったら辛いじゃん〜」

 案の定、深成が口を尖らせる。
 だが真砂は、ふんと鼻を鳴らした。

「嫌いな物は、ないんだろ」

「嫌いじゃないけど、すっごい辛いやつもあるんだもん」

 相変わらず口を尖らせたまま、メニューをなおす深成を、やはり六郎は微妙な表情で見る。
 どうも深成の態度からして、真砂とシェアするのは当たり前のことのようだ。
 真砂も、意地の悪い口を叩きながらも、それが当たり前のように振舞っている。

---一体、どういう関係なのだ---

 六郎の心に波が立つ。
 一方そんな六郎を、千代は目を細めて眺めていた。

 そうこうしているうちに、テーブルに二種類のパスタが運ばれてきた。

「美味しそう〜。わお、この温泉卵、絶妙な火の通り方だね〜」

 嬉しそうに言いながら、深成はいそいそと皆にフォークを回す。
 その間に、真砂は取り皿に温泉卵をごろりと入れた。

「ほれ」

 そのまま深成に渡す。

「わ、いいの? 真砂、卵好きじゃん」

 笑顔になりながらも、一応気を遣う深成だったが、真砂は気にすることなくフォークにパスタを巻いた。

「別に卵が好きなんじゃない。辛いものは苦手なんだろ。それに絡めたほうが、食いやすいだろうが」

 無表情で、淡々と言う。
 己の好みを優先したわりに、ちゃんと深成のことも考えている風な真砂の態度に、六郎はざわつく心を悟られないよう、水を飲んで誤魔化した。

 当の深成は、そんなこと気にしていないようで、そっか、と呟いて、早速パスタを取り皿に入れている。